「そうですか。話していただいてありがとうございます」

校長先生は僕が話している間、時折頷きながら悠揚迫らぬ態度で聞いていた。

「久田先生、確かに副﨑さんの家庭事情には複雑な部分があります。話を聞いて何かをしてあげたくなったという気持ちもお察しします。ですが我々は教師です。教師として、すべき行動とすべきでない行動があります。たとえ生徒のためだと思ってした行動でも、それがこうした事態を招いてしまってはかえって生徒が傷つくことになります。自分の行動がいかに軽率であったか、理解できますね?」
「はい……」

校長先生は落ち着いた声で話してくれたが、一つ一つの言葉が僕にとって非常に重たいものだった。
こうなる危険性があるのは僕も分からなかったわけではない。
ある程度把握した上での行為だった。
買い出しの帰りの車内の中で副崎のあんな顔を見て、身体が勝手に動いてしまった。
しかし、そんな言い訳など通用するはずがない。
僕のとった行動が、教師としてすべきものでなかったことは間違いないのだ。

「久田先生、貴方には然るべき処分も検討しなければなりません。それが決まるまでは、自宅で謹慎していただきます」
「き、謹慎……」
「ええ。今回の写真、この学校の関係者が撮ったと考えられます。ほぼ間違いないと言ってもいいでしょう。そしてそれが生徒の誰かであった場合、既に学校中に広まっている可能性が高い。スマホやパソコン等を使って、拡散されていると考えるべきです。その中で久田先生が生徒の前に現れれば、混乱が起こることは火を見るよりも明らかです。そうした理由から、仮処分も兼ねて謹慎という形をとってもらいます」
「はい……」

反論する余地はない。
同時にここで謹慎になることは、僕が副崎と話す機会を失ったことも意味していた。

「……待てよ、生徒の間に広まっているのだとしたら……」

僕は立ち上がり、三年二組の教室を見る。

「ようやく気付いたのですか」

校長先生の口調が厳しくなる。

「私が言った生徒を傷つけるというのは、こういうことです。今彼女はもしかしたら、攻撃の標的にされているかもしれません」
「だ、だったら、副崎を助けないと」

会議室を出ようと、扉に手をかける。

「待ちなさい」
「で、でも……」
「そんなことは分かっています。こちらとしてもどうにかしなければなりません。しかし、貴方が行っても何の解決にもならない。それどころか状況を悪化させるだけです」
「う……、すみません」

僕は扉から手を放す。
今副崎の教室で何が起こっているのかは容易に想像できた。
またその想像は、現実となっていたのだった。