「ちょっと!ワタシのお金返して!!」


黒髪の女が盗人を睨んでいた。


どうやら金を奪われたらしい。


辺りは山の中で、助けに来てくれそうな人間はいない。


「おい、どんだけある?」


「まぁまぁだな。酒ぐらいは飲めそうだ」


女の声は聞こえていなかった様に話を進める。


それに苛ついたのか女はひたすら口を動かす。


「弱い女から金を奪って酒を飲むって?
なんて卑怯な人達なの?

こんな最低な事ってあるかしら」


腕を組み、嫌満ったらしく鼻で笑う。


盗人は眉をピクリと動かした。


「こいつ…」


「女だからってなにもしねぇとは言ってねぇぞ」


下品に笑いながら一歩一歩距離を詰め出した。


後ろに下がりながら盗人を睨み返していると、何かに当たった。


崖だった。


「嘘…」


見上げる。


登れるような高さではない。


「この女売って酒代の足しにしようぜ」


「賛成だ」


「嫌よ!」


潔くいってみるものの、逃げる策はゼロだ。


盗人は縄を取り出して近寄ってきた。


腕を捕まれたので女は必死に暴れた。


男の力に敵うはずもなく腕は後ろへ回される。


「痛い…っ」


「残念だったな。オレ達の酒代になってくれや」


盗人達は大笑いしだした。


その間に女は縄で縛られ身動きがとれなくなってしまった。





同時刻。


マントの男が歩いていた。


「いい天気だな…。こんな日は昼寝に限る」


伸びをしながらあくびをひとつ。


目を擦り、周りに視線を泳がせる。


どこかに昼寝にピッタリな場所は無いだろうか。


キョロキョロしていると、どこからか女の声が聞こえてきた。


「嫌よ!」


「んんん??」


なにやら相当な事が起きているようだ。


声の大きさからしてそこまで離れていないと思うが、見渡しても木、木、木。


首を傾げて居ると、大勢の男の笑い声が聞こえてきた。


足元の崖を見る。


下で女が男に捕らえられている光景が見えた。


「あー。盗人か」


別に助けなくても良いのだが、それはそれで後味も悪い。


男は首を左右に傾けると、崖から飛び降りた。


その高さは、数十メートルである。