部屋の中は酒臭い。
ビール缶だらけの部屋を少し片付けようかと考えたが、母を起こしてしまうかと躊躇った。
掃除は明日にしよう。
母の体に毛布をかけ、私も母の近くで毛布を被って眠りについた。

こんな生活を毎日続けていた。
この生活に終わりが来るなんて、思ってもみなかった。

夢の中で、私は私に問う。

「幸せ?」

その質問に対し、私は首を傾げた。
何故“私”がそんなことを問うのかと。


「ママが笑ってくれれば、幸せ」


迷わずにそう答える。
そして笑ってみせた。
“私”は無表情に次の言葉を口にする。


「それは幸せじゃなくて、安心でしょ?」


確信をつかれたような気がした。
瞬間、目が覚める。
光が差し込む明るい部屋。
母はもう既に起きたのか、姿が見えない。
毛布を剥いで、立ち上がると急な眩暈に襲われた。
視界が霞む、足元がふらつく、気持ち悪くて吐きそうだ。
昨夜の寒さで風邪を引いてしまっただろうか。
それとも単に栄養不足か。
気付けば何も口にしないまま3日が過ぎていた。


「ママ……」


姿の見えない母を呼ぶ。
割と大きな声を出したつもりだったが、実際に出たのはとてもか細い声。
弱っている、と誰でも判断できるだろう。
今日は部屋の掃除をしようと思っていたが、この状態では流石に無理だ。
今日は少し休んでいよう。