「お腹減らない?」


ビールに口をつけながら母は言う。
確かに、口には出さないものの二日間丸々何も口にしていないため、空腹は感じていた。
ここで盛大に腹の虫が鳴く。


「食べ物を買うお金がないの。ママのためにまた頑張ってくれる?」


逆らわない。
逆らえない。
こちらを振り向いた母は笑う。
私は母の期待に応えるように笑顔で頷いた。


「わかったよ、ママ」


生きるためにはお金が必要。
私がお金を手に入れる手段は一つ。
男の人達に身体を売ること。
嫌じゃないと言えば嘘になる。
しかし、母がそれで笑ってくれる、母が私を頼りにしてくれる。
それだけが嬉しかった。

初めては7歳位の頃だった。
息を荒くした中年太りのおじさんが私の体に触れた。
何も知らず、怖がる私に男はこう言った。
『これは大人になるために必要なことなんだよ』
幼い私はその言葉を信じて耐えた。
耐え続け、今ではもう慣れてしまった。
これは私と母が生きるための手段だ。


「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」


家を出て、向かうのはやけに煌びやかな夜の街。
冷たい風が体を包む。
もう少し分厚い服を着てこれば良かったと考えるが、服はこれしか持っていなかったことに気付く。
すれ違う人々の服と自分が着ている服を見比べ、なんだか恥ずかしい気持ちになる。