これ以上私の心に踏み込んで来ないで。
本当の私を知るのは私だけで良い。
私の醜さを知るのは、私だけで良い。
他人に頼ってはいけない。
私なんかに居座られたらきっと迷惑だ。
きっと母にとってもそうだった。
私の存在が邪魔だった。
邪魔な存在を上手く利用した。
私はどうすれば良かったのか。
どうすれば母に受け入れてもらえたのか、どうすれば褒めてもらえたのか、どうしたら私の話を聞いてくれたのか、いつか母と笑い合える日が来ると、そんなことを期待して何年母の言いなりになった?


「泣きそうな顔」


男性の言葉で我に返り、気付くと目には涙が溜まっている。
慌てて両手で涙を拭った。
暇さえあれば母のことを考えてしまっている自分に嫌気がさした。
母はもういない。
そう思っていた方が良い。
これからは1人で生きていかなければいけないんだ。


「帰る所あるの?君」
「……」
「お母さんとお父さんは?」
「……」
「家出少女?」
「……」


デリカシーなどという言葉はこの場には存在しないのか、男性はズバズバと質問を飛ばすが、どれにも何と答えたら良いのかわからなかった。
ただただ俯き、床を見ていた。
するとだんまりを決め込んでいる私に痺れを切らした男性が少し強めの口調で言った。


「未成年だよね?俺から『迷子です』って警察に通報しても良いんだよ」
「駄目!」


咄嗟に言葉が出た。
思ったよりも声が大きく出てしまい、男性は少しだけ驚いた。