ベッドの横にデジタル時計があり、みると時刻は午前11時。
その時計には、現在の日付、曜日も表示されている。
昨日倒れて、次の日の朝までぐっすりだったというわけか。
昨日のことを思い出すと、心が痛んだ。

まだ完全に状況を把握しきれていないため、私は戸惑い何も言えずにいた。
そんな私を見た男性はまた優しく笑い、「お腹空いてない?」と声をかけてくれる。
その簡単な質問に対し、控え目な頷きで意思表示をした。


「とりあえず食べやすそうな雑炊作ってみたんだけど、それで良い?」
「……はい」


やっと出た声はとても小さい。
昨日の雨で風邪でもひいたか、喉がガラガラした。
男性は一度部屋から出て、またすぐに、今度は雑炊が入ったお皿をもって戻ってきた。
私はベッドから重い体を起こし、男性から蓮華を受け取る。
目の前のテーブルに置かれた雑炊からは湯気が立っていた。
きのこ、玉ねぎ、そして溶き卵が入っている。
人の手作りのご飯なんて、いつ振りだろうか。
母から出される食事はいつも菓子パンだった。
その他には、関係を持った男性達から時折少し高めの料理を奢ってもらうのみの生活。
こんなに温かみのある食事はもしかしたら初めてかもしれない、と雑炊に口をつけた。


「どう?」
「……」
「美味しくない?」
「…………」
「……なんで泣くの?」


それは特別美味しいわけではない。
それでも、とてもとても温かい。
触れたことのない温度に、戸惑い、いつの間にか泣いていた。