いま、中学二年生の私の目の前にいる男のその指が、私のなかにはいろうとして、ちらちらとわたしのいりぐちに指をつっこみかけた瞬間、うえっ、うえっ、とえづいたのは私だった。私は吐いた。捲り上げられた紺色のスカートと白いパンツと茶色い革製のスクールバッグが吐瀉物で汚れた、男の腕にも一片のそれが飛んだ、ポー、と間抜けな音を立ててドアが開いた、男は慌てたように急いで立ち上がって出口に向けって駆け、カンカンガンと音を立てて階段を下りていった。
駅のトイレで私はまた吐き、泣いた。こわかった。こわかった。こわかった。ゲロまみれの制服で最寄り駅でもない次の停留所でダッシュで降り、駅のトイレに駆け込んだ。汚い。汚い。駅のトイレは汚いのだけどそれでも洋式便所に顔を突っ込んで思い切り吐いたあとそのままその床にへたりと座り込んでしまう。くさい、くさい、自分がくさい。前の人に乱雑に千切られたトイレットペーパーで口を拭ってトイレに捨ててトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってシャツを拭いてシャツを拭いてそれら全てをジャーって水に流した。水に流したけど水には流れなかったそれだけ拭いても私は吐瀉物の匂いで十分臭かったし、ああ私なんて臭いんだろすごく臭いと思って自分の匂いでまたえづきそうになって嗚咽が漏れる。鞄から急いでスマホを取り出してアルバムに保存している沢山のムービーのうちから一つを急いで押して再生した。くまちゃん。今、この場所にそばにいないくまちゃんを画面の中から引っ張り出すみたいに、もしくは私が画面の中に入ってくまちゃんに抱きつくみたいに赤い目で彼を凝視する。今すぐ会いたくて画面の中で私に話し掛けたり笑ったりする彼の姿に安心しぼろぼろぼろって画面に液体が落ちていって彼が霞んでいく、彼はきっと私を汚いなんて言わないやっぱり汚れた存在だなんて言わないきっと抱き締めてくれる私がゲロだらけでもきっと抱き締めてくれるから早くくまちゃんに会いたい。
それからくまちゃんと愛の行為をするのは三週間ぐらい掛かった。くまちゃんは私の部屋、お姫様チェアに腰掛けてるけど、体が大きいからちょっと椅子からはみ出してる。私は跨ってその上に乗っかかって、小さなコアラになったみたいに彼に引っ付いていた。忘れて、忘れてほしいよって囁かれる、日も落ちていないのに全て閉じたバラ柄のカーテンが目に入る、忘れてほしいってのはやっぱり私は汚いってことなのとちらりと思うけど黙ってくまちゃんに引っ付いていて、目を閉じて、彼の腰にぎゅっと手を回していたうちの右手で柔らかな皮膚を撫でた。だいじょうぶ、くまちゃんには男性器なんか付いてない。くまちゃんは男かもしれないがオスではない、わたしのなかを欲望だけで掻き回すそんなものはない。光沢のあるつやっとした茶色の毛並み、目を閉じていても分かる、くまちゃんの身体は大きくて柔らかくて優しくてひとつも暴力的なところがないんだよ。私は手をそっと自分のスカートの中に入れて、パンツの上からクリストリスを押した。くまちゃんの腰の毛をさわさわしつこく撫でながら、自分のクリストリスも同じようにする。時計向きに円を描く描く描く少し強く描く円をくるくるくるって強く、わ、た、し、のゆびが、いつの間にかあたまのなかでくまちゃんの指にかわって、たくさん毛が生えたすごく太いくまちゃんの指がわたしのクリストリスをさわるなでる、でもくまちゃんは絶対私の膣の中なんか触ったりしないんだ、だってそんな欲望を出し入れするところは縫い合わせて閉じているから。くまちゃんの指が私の神経の変なところに触れているみたいに気持ちよく撫でる押す撫で回すわたしはきつく力を込めてくっつく世界がぐるんと回転して沢山の人間を振り落として回ってもわたし達が離されないように。あっ愛してるのいっちゃういっちゃういっちゃうって小さな声で言う、くまちゃんはコクンと頷く僕もって言う、いっちゃういっちゃう。ふたりでやわらかくてやさしい星に飛べそうな気がした。もっと強く抱きついてそれからゆっくり力が抜けてって、くまちゃんの毛がもうもうの身体の奥深くに愛が浸透していくのを感じた。
女子高に入って初めての冬、高校一年生の初冬だった。パンツに茶色い楕円形の染みができていて、とうとう生理が来てしまったんだと分かった。膣の入り口を縫い合わせて閉じているはずだった精神に身体の仕組みが負けてしまったんだと思った。ポケットに入れていたスマホで部屋でくまちゃんの沢山のムービーの中から一番上の一つを再生した、くまちゃんは動かなかった、ずっと椅子に座ったまま、首が微かに右向きにしなだれたままでいた。笑わず、口を開かずに喋らず瞬きもせず、手も足も指もぴくりとも動かなかった。35分のムービーが18分経っても27分経ってもくまちゃんは微動だにしなかった。私はまだくまちゃんを信じていたスマホの画面を指でなぞって頭を撫でた。でも、当たり前でしょうくまちゃんはぬいぐるみなんだからと誰かが言った。膣の中に液体がつたっているのを感じた、私の中が浅黒い血でとろとろしているのを感じた。33分経っても34分経っても画面の中のくまちゃんは動かなかった、固まったままのくまちゃんが映って秒と分は動いていくけれどくまちゃんは動かない。35分待てばくまちゃんは男性器がついてなくて私と愛し合っている生きた存在であることを証明できるかもしれない、でも私は最後の最後まで待ってあげずに、静かにスマホの画面を暗くした。欲望の入り口はとろとろとろとたっぷりの血で潤っていた。右手の人差し指を、血が溢れる女性器につっこんだ、ちゃぷん、と音がした。
駅のトイレで私はまた吐き、泣いた。こわかった。こわかった。こわかった。ゲロまみれの制服で最寄り駅でもない次の停留所でダッシュで降り、駅のトイレに駆け込んだ。汚い。汚い。駅のトイレは汚いのだけどそれでも洋式便所に顔を突っ込んで思い切り吐いたあとそのままその床にへたりと座り込んでしまう。くさい、くさい、自分がくさい。前の人に乱雑に千切られたトイレットペーパーで口を拭ってトイレに捨ててトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってスカートを拭いてトイレットペーパーを千切ってシャツを拭いてシャツを拭いてそれら全てをジャーって水に流した。水に流したけど水には流れなかったそれだけ拭いても私は吐瀉物の匂いで十分臭かったし、ああ私なんて臭いんだろすごく臭いと思って自分の匂いでまたえづきそうになって嗚咽が漏れる。鞄から急いでスマホを取り出してアルバムに保存している沢山のムービーのうちから一つを急いで押して再生した。くまちゃん。今、この場所にそばにいないくまちゃんを画面の中から引っ張り出すみたいに、もしくは私が画面の中に入ってくまちゃんに抱きつくみたいに赤い目で彼を凝視する。今すぐ会いたくて画面の中で私に話し掛けたり笑ったりする彼の姿に安心しぼろぼろぼろって画面に液体が落ちていって彼が霞んでいく、彼はきっと私を汚いなんて言わないやっぱり汚れた存在だなんて言わないきっと抱き締めてくれる私がゲロだらけでもきっと抱き締めてくれるから早くくまちゃんに会いたい。
それからくまちゃんと愛の行為をするのは三週間ぐらい掛かった。くまちゃんは私の部屋、お姫様チェアに腰掛けてるけど、体が大きいからちょっと椅子からはみ出してる。私は跨ってその上に乗っかかって、小さなコアラになったみたいに彼に引っ付いていた。忘れて、忘れてほしいよって囁かれる、日も落ちていないのに全て閉じたバラ柄のカーテンが目に入る、忘れてほしいってのはやっぱり私は汚いってことなのとちらりと思うけど黙ってくまちゃんに引っ付いていて、目を閉じて、彼の腰にぎゅっと手を回していたうちの右手で柔らかな皮膚を撫でた。だいじょうぶ、くまちゃんには男性器なんか付いてない。くまちゃんは男かもしれないがオスではない、わたしのなかを欲望だけで掻き回すそんなものはない。光沢のあるつやっとした茶色の毛並み、目を閉じていても分かる、くまちゃんの身体は大きくて柔らかくて優しくてひとつも暴力的なところがないんだよ。私は手をそっと自分のスカートの中に入れて、パンツの上からクリストリスを押した。くまちゃんの腰の毛をさわさわしつこく撫でながら、自分のクリストリスも同じようにする。時計向きに円を描く描く描く少し強く描く円をくるくるくるって強く、わ、た、し、のゆびが、いつの間にかあたまのなかでくまちゃんの指にかわって、たくさん毛が生えたすごく太いくまちゃんの指がわたしのクリストリスをさわるなでる、でもくまちゃんは絶対私の膣の中なんか触ったりしないんだ、だってそんな欲望を出し入れするところは縫い合わせて閉じているから。くまちゃんの指が私の神経の変なところに触れているみたいに気持ちよく撫でる押す撫で回すわたしはきつく力を込めてくっつく世界がぐるんと回転して沢山の人間を振り落として回ってもわたし達が離されないように。あっ愛してるのいっちゃういっちゃういっちゃうって小さな声で言う、くまちゃんはコクンと頷く僕もって言う、いっちゃういっちゃう。ふたりでやわらかくてやさしい星に飛べそうな気がした。もっと強く抱きついてそれからゆっくり力が抜けてって、くまちゃんの毛がもうもうの身体の奥深くに愛が浸透していくのを感じた。
女子高に入って初めての冬、高校一年生の初冬だった。パンツに茶色い楕円形の染みができていて、とうとう生理が来てしまったんだと分かった。膣の入り口を縫い合わせて閉じているはずだった精神に身体の仕組みが負けてしまったんだと思った。ポケットに入れていたスマホで部屋でくまちゃんの沢山のムービーの中から一番上の一つを再生した、くまちゃんは動かなかった、ずっと椅子に座ったまま、首が微かに右向きにしなだれたままでいた。笑わず、口を開かずに喋らず瞬きもせず、手も足も指もぴくりとも動かなかった。35分のムービーが18分経っても27分経ってもくまちゃんは微動だにしなかった。私はまだくまちゃんを信じていたスマホの画面を指でなぞって頭を撫でた。でも、当たり前でしょうくまちゃんはぬいぐるみなんだからと誰かが言った。膣の中に液体がつたっているのを感じた、私の中が浅黒い血でとろとろしているのを感じた。33分経っても34分経っても画面の中のくまちゃんは動かなかった、固まったままのくまちゃんが映って秒と分は動いていくけれどくまちゃんは動かない。35分待てばくまちゃんは男性器がついてなくて私と愛し合っている生きた存在であることを証明できるかもしれない、でも私は最後の最後まで待ってあげずに、静かにスマホの画面を暗くした。欲望の入り口はとろとろとろとたっぷりの血で潤っていた。右手の人差し指を、血が溢れる女性器につっこんだ、ちゃぷん、と音がした。
