天ぷら油が腕にはねて、思わず、「あちっ」と腕をよじる。じゅわわわわ、フライヤーの熱された油のプールはもう茶色くなっている、わたしが唐揚げぐらいの小さな生き物だったならばこの中に身投げすれば楽々に死ねたんだろうなって思う。ああでもそれって自殺っていうか素揚げかなみたいな、この鶏の唐揚げたちとともに誰かのお弁当の一品になって550円の唐揚げ弁当としてありがたみもなくご飯にされてしまうのかなみたいな。
「田中さん、タイマー鳴ってるよ!唐揚げ焦げるから早く上げて!」パートのおばちゃんの声にはっとして、あわあわとフライヤーの中の銀色の網に捕らわれた死んだ鶏を引き上げる、からからに衣をつけていてカラカラだ。「田中さん、次はエビ天揚げて!」はーい。わたしはお弁当やさんのバイト。この仕事をしていると実にしょうもなく感じる、食べて排泄して食べて排泄して食べる人間の食事が、そして命をつなぐありがたいものである食事を400円とか500円とかいう小銭で買えるのが。同じ油で何度も揚げて茶色くなった油で分厚い小麦粉の衣をからからっとさせる、わたしはゴミに近いものを作っていてそれを人は安価で買って生きるための糧としてるんだってなんて馬鹿馬鹿しいんでしょうね、とか思いながら油で揚げていったらやることはあるから時間が経つのはまあそのうちで、そのうち休憩をもらえる時間になってロッカールームで一人で賄いの唐揚げ丼を食べていた。美味しいとか思いたくなくて安価だ肉だと思いながら罪のない鶏肉を呪うみたいに咀嚼していく、呪う、唐揚げを取り越してそれを揚げていたわたしをかすって、わたしのその価値のない時間を価値のないわたしを。ロッカールームの床にお尻をつけて座り込んで、足の上にスマホを置いているけれどさっきからそれは鳴らない光らない、さっきからじゃないやもうずっとそうだ。健太くん健太くんは死にました死んだわたしの彼氏です彼は心が弱い人だったから死んだんです一人でわたしを残して。裏切りです健太くん、健太くんがここにわたしを置いて身体をマンションの地面に叩きつけた瞬間、健太くんの魂は上に登って行って、置いていかれたわたしの価値はもっともっと下がったんでしょう。わたしだって生きたかないのに賄いを米一粒残さずに食べきるんだなって苦笑いして縁がかけた皿を見つめる、ロッカールームの照明が反射してテロンと光っているだけでなんもない。休憩いただきましたー、ぼそぼそと戻るとパートのおばちゃんが顔をぱっとこちらに向けて彼女の額の汗が綺麗な放物線のしずくになって飛び散るのが見えた気がした、「ごめん、ごはん大盛りでハンバーグ弁当用意して!」はーい。ぶーぶーぶー働くぶたさんみたいな気分になって急いで詰めていく、わたしの汗も彼女の汗みたいに綺麗に飛ぶのかなあって。