カップ麺の残りのゴミ、漫画、服、鞄、コンビニやスーパーの袋、などなどそれらで散乱したあたしの部屋は平たく言ってとても汚い。床が物やゴミで埋まりそうになるなか、わずかな隙間を作ってそこに座り込んで漫画をぺらぺら捲っていた、もう何度も読んだギャグ漫画だ。憂鬱な音楽を聴きながら、だから外の音も薄まっていて、そもそもクーラーをつけて閉じきった部屋にはほとんど何の音もなくてたまにあたしがこぐ屁の音ぐらいのものだけど、でも外の音が聞こえないというのはいい状態で、あたしの部屋は世界を切り離されてゆらりゆらりと海に浮かぶ小島だった。あーワカメワカメ海に潜ってワカメ取らなきゃって、床に転がったワカメラーメンの入れ物を見て適当に思った、捲る、展開を読みきったギャグ漫画を。時間は長い。この部屋に時計はないけど時間は一日は長いし、そしてカーテンを締め切っているから今がどれぐらいの時間帯なのかもよく分からない。
 でも、イヤホンから聞こえる音楽の他に、玄関のドアを開けるぎいって音が聞こえたあたしは耳を澄ますぺたぺたと足音が聞こえないけど聞こえる気がする、それから、がちゃとリビングのドアを開ける音、その音を確認すると音楽プレーヤーの音量ボタンをつかんで回して音量を上げた爆上げぴぴぴ。そしてそばの物をがっと寄せてかろうじて人が寝れるぐらいになった床に寝転がった、身体を横向けにして目を開いたまま、クリーム色のカーペットの上の埃が目に入る、まあまあ大きな三つのもくもくの灰色の雲、それを手で払って目を瞑る、音が耳を刺激する爆音爆音爆音鼓膜が破れて何も聞こえなくなるかもしれないそりゃいいやって。
「この部屋、うるさーい」
 音楽をマシマシてますますこの部屋をあたしの孤島にしようとする願いも虚しく、あたしの部屋の扉が開けられ、小学校から帰ってきた一年生の妹がピピピと高い声を発したのが聞こえたけれどあたしは寝ているふりで汚城のカーペットに寝転がっている目を瞑っている君のお姉さんは死体なんだよ、君にはあたしが見えるのかい、見えちゃいけないんだよあたしが見えるなんて頭おかしくなってるんじゃない、っていうかミキとあたしを同じ世界の人にしないで。というあたしの願いも虚しく、きたなーい、などと言ってあたしの死体に近付いてきたミキはあたしの頬をぺちぺち叩き、それでもあたしが起きないと分かると体を揺すって、お姉ちゃん起きてーと叫んだ。フハハハお前の声なんかこの爆音の中に溶けてしまうのだよと頭の中で悪役の声が流れたりしたけれど、ミキが一向に諦める気配がないので、ようやく起こされていることに気付いたという顔で目をこすって、はて?と言うと、目の前にあったミキの顔が、もーお姉ちゃん全然起きなかったよー、と眉をしかめるぬいぐるみみたいに。
「へえそうなの気付かなんだわ」
「お姉ちゃんったらー。ミキ、ずっと揺すって起こしてたー。あとこの部屋うるさい」
「あーうるさい?そうねー、いつのまにか音が大きくなったのかなー、気付かなかったー」
 ミキの小さな肩に手を置きながらふああとあくびをして、うるせえお前噛み殺すぞと思いながら、で、どうしたの?と尋ねた。
 おやつぐらいあるもん自分で食えやと思いながら冷凍庫にあったチューペットをミキに渡してやり、さてこれで御役御免よというはずが、お姉ちゃんも一緒に食べてと言うので、なんであたしが一緒にアンパンマンを観ながらチューペットを吸ってんだこのクソがなんだよこんなの凍らしたジュースじゃないかとか、でもあたしも小さい頃はチューペットが好きだったわとかぺらぺらになった記憶がふっと吹いたりとか、でもあたしは全然アンパンマンを観ていなくてチューペットを吸いながらベランダばかり見ていて、せめて言うならミキがテレビに夢中になっていて話しかけてこないのはまあ楽だった。でも、いらいらする、と思いながら、ベランダの向こうのマンション郡と空を見ているぼうっといらいらするあたしはいつもいらいらしている、例えばミキが自分でおやつを選べないこととか、一緒におやつを食べたがることにもいらいらするし、当たり屋みたいに周りの小さなことに対してほれ来たかと言わんばかりにキャッチしていらいらする、みんながあたしに納豆をかける、でもそれは本当はあたしがいらいらしているからなの。って、中身がなくなったチューペットの入れ物の口のところをぐにぐにと噛む。薄くなった水っぽいジュースとビニールの味をした、アンパンマンはもうしばらく終わりそうじゃなかったけど、ミキ、お姉ちゃん行かないと行けないところがあったの思い出したから出掛けるわ、と立ち上がると、テレビに向かって体育座りをしていたミキが不満げな顔を上げて、えーでももうちょっとで終わるから一緒に観ようよ、と言った。ごめん、時間がないの思い出したから一人で観て、他のDVDも観たかったら観ていいよ、と振り切ると部屋に戻った、むくれたミキの顔、子どもは自由。部屋に戻ると空気が淀んで臭いのに気付いて苦笑してそのうち掃除しなきゃねえって、掃除掃除ってなあにってあたしわかんなあいって心の中でミキみたいに逃げたくて、さっさっさと化粧をして着替えて玄関を出ようとしたところで、リビングからわーっと飛び出してきてまたまとわりついてきたミキに三十分ぐらいで帰るからとか適当なことを言ってがたんがたんと電車に揺られる変わっていく景色ずっと同じマンションだけど日差しが夏ですもう夏になりましたって、行き先は決まっているけど会う人が決まっていない。鞄から携帯を取り出してツイッターの円光アカウントを開くと、裸の写真を撮りたいという気持ち悪いおっさんに連絡をして会う約束をした今すぐだよ梅田のサンマルクで待ってるからはよ来いや。禁煙席で白桃スムージーを飲みながら待っていると頭がおかしくなる気がした。禁煙席なのに喫煙席と扉で区切られていないから煙が流れてきて少し煙たい、その先を追う、二人組の若いお兄さんがすぱすぱすぱー、二人とも長くて明るい茶髪であまりまともに働いてそうな感じでもないあーでも美容師とかかショップ店員とかかそうか働いてんのかラーメンや店員とかかそれでも働いてるよなすぱぱぱぱ。立ち上がって聞いてみたいそこの二人組のお兄さんにあなた方は働かれてますかって。カラオケ店員でもいいわ、働いてますよって言われた瞬間、副流煙をいっぱいに吸い込んだあたしの肺胞がぱぱぱぱぱんと弾けて死ぬわ死にたい。
「ミキちゃん?」
 妹の名前を騙ったアカウントの名前を誰かが呼ぶ。はっと頭上を仰ぎ見ると、脂たっぷりラーメンみたいな気持ち悪い顔をしたおじさんがいた。あたしは彼に若干引きつつも、そうですと答える店を出る、どこのラブホ行く?あ、東通りで。少し離れた不自然な距離で歩く梅田の混雑した狭い道で少し距離を取って前を歩く彼を見ている、気持ち悪いな気持ち悪いなこんな気持ち悪い人に犯されるのかってそれが逆に服の下の心臓をとくとくさせてパンツの中をじめっと濡らす。あたしがちゃんと付いてきているのか不安なのかもしれない時々彼が振り返るまりもっこりみたいな目であたしを捉える可哀想な人だだからあたしはその手を握ってあげた彼の汗が共有されて塩水かなみたいな。海?ミキがいるお家よりはずっと海、あたしは泳ぐ行き先も何にもわかんないけど泳ぐ魚、でもあたしにはマンコがついている神はあたしに唯一役に立つ贈り物を与えた。
 ラブホのベッド、比較的清潔、4200円、ベッドの上に股を広げて座って写真を撮られていた一眼レフかなんか知らねえけどちゃんとしたカメラがカシャカシャとシャッターを切ってあたしをその中に封じ込めていく。
「ねえ、おまんこ指で広げてくれる?」