別にチンコは偶像崇拝をされる神じゃないし、そもそも木や金属できた偶像ではないし、そしてそれを挿入してもらうことだって目標や目的といった目指すべきゴール的なものになるわけでもない、チンコというのは実体として全ての男の股間に存在するわりには、女にとって曖昧な存在なのではないか。あたしは今日、健太先輩と寝た。嫉妬深い理沙先輩の彼氏である人。でも、あたしは三ヶ月前の新歓コンパで健太先輩を一目見て恋に落ち、いくつもある軽音部の中でも、健太先輩のいる『ほうき星』に入ることを決意したのだ、それでやっと今日の飲み会の終わりでとんとんとんってたまたまこっち方面の下宿生があたしと健太先輩だけで酔いどれの千鳥足で二人で帰ってきて、今、健太先輩はあたしのムーミンの人形の隣ですやすやと眠りに落ちている。女の子ときゃいきゃいと喋っていただけで焼きもちを妬いて健太先輩のことを叩いたり蹴ったりするという理沙先輩の彼氏である健太先輩。天井に仰向けに目を閉じて眠りの世界にいる、その長くも無い睫毛を人差し指でなぞって、柔らかな動物の毛の感触、さっきセックスはしたのに、初めて健太先輩にこんな近くで触れた気がした。わたしは犬みたいに四つんばいで、頭だけを下げた前傾姿勢をして、健太先輩の頬に自分の唇を擦り付けるようにして動かし、くうん、と鳴いた。犬は一晩で誰かに調教されてすっかりご主人を鞍替えするなんてことはしないかもしれないけれど、あたしは三ヶ月間健太先輩を部室の端から見守り片想いを続けてきて、今夜やっと結ばれたのだ、そりゃあご主人様を求めて鳴く犬のようにくうんと鼻を鳴らすだろう。くうううん。今度はもうちょっと長めに鳴いてみたけれど健太先輩はぴくりとも反応せず一向に起きる気配がなかったので、健太先輩の右瞼の目尻の下にあるひとつぶのホクロを舌を伸ばして舐めた、マーキングする犬みたいにそのホクロに唾液を吸わせていく、あたしは特にこのホクロが好き。ぺろぺろぺろ、健太先輩の目尻の下のホクロは勃起したクリストリスのようにいつも黒くぷっくりと膨れています、それが窓ガラスについて持ちこたえられなくなった雨粒みたいについと落ちて目の下を流れて汚していくあたしの唾液で。それが流れて頬で止まって一筋の唾液で光る頬、を見ながらあたしはマンコのことを思い出した。
 健太先輩のセックスは、一言で言えば普通だった。キスも普通、愛撫も普通、挿入も普通、いっちゃういっちゃあああうってあたしの一人暮らしのアパート中に響き渡らせて、『深夜に悲鳴のような騒音が発生していると苦情が入っています。お気をつけ下さい』と張り紙をエントランスにされることもなく普通のセックスで、でもあたしは健太先輩と一回寝てみたいものだとかねてから思っていたけれど、かといって健太先輩のチンコを出し入れしたりベロチューしたりマンコを舐められたいという話でもなかったので普通のセックスでまあ別に問題はなかった。だって、あたしは健太先輩に恋をしていたのだ、一度寝てみたいという言葉には二つの違うベクトルの意味が隠されているはずだ、一つは健太先輩と一回寝てみたいものだとかねてから思っていたけれど、かといって健太先輩のチンコを出し入れしたりベロチューしたりマンコを舐められたいという意味、もう一つは体の接触自体にはそれほど重点を置かないから洋服を脱いで纏って誤魔化すものがなくなった裸の人になったあなたとあたしでひとまずむちゃくちゃになってみたいという意味、あたしは後者だった、だって健太先輩に恋をしているのだから。
 思い出す思い出す健太先生の普通のベロチュー普通にあたしのベッドにあたしを押し倒すベロチューしながら月並みな少女マンガみたいだそれと同時に服の上からおっぱいで揉んで、なんだよコロッケの作り方みたいに順番決まってんのかよって感じに順番正しくパンツの上からマンコをなぞり、ギャルみこしの最初の掛け声みたいに、はあはあはあ吐息を、あんっていう意気込みに変えさせて吐き出させ、それが指入れOKの合図ですと受け取ったようにパンツの中に指を入れてマンコを探してパンツのクロッチの部分の面積は大きくないのにマンコの挿入口はかくれんぼの宝探しみたいねって感じで探し当てた湿った口に指を入れて前後に抜き差しする、なんて模範的なのって、でもあたしは健太先輩が自分の指であたしにそんな模範的な性の導入口を開こうとしていること、さっきサークルの皆で飲んでいたときは服を着てハイ先輩ですハイ後輩ですみたいな顔をしていたくせにこうすると先輩も後輩もなんにもなくなってお互い人間で、いやお互い人間っていうより性欲チンパンジーに近くなっていたかもしれないけれど、歴史学の先生が突然英語の先生になってまともに日本語英語を発音しようとしているのを聞いた未知の扉というそれだけでまあまあ興奮していた。健太先輩のやっていることやテクニック自体は平凡なものなので、これは身体的な興奮というより精神的な興奮だ、精神的興奮にも大きく分けると二種類あって、大好きな人とヤッているという興奮と、マンションのエントランスであーん、大学の階段であーん、人来ちゃうかもみたいなシチュエーション的な興奮の二種類に分けられると思うのだけれど、これは前者だ、あたしは健太先輩の右目の下のホクロの神経質そうな感じがすごく好きなのだ。健太先輩はそしてしばらく平凡な前戯を続けたあと、一瞬止まって戸惑ったのが分かったので、たぶんそれにはあたしの方がなぜかぴゃっと汗が湧いた、ああ、あたしは健太先輩の思考回路を知らなくて導き出そうとしている解を読み取れなくて一秒で裏を読んで怖くなる。
「ゴム、ある?買って来ようか?コンビニで」
 あたしの股をベッドの上で開けさせマンコをさっきまでじゅるじゅると舐めていた果物の汁を吸うようにしてでもその汁を食べ溢しながらクンニしていた健太先輩があたしの股の間から上目遣いになって聞く。やっちまったなあ、家に入れる前にコンビニ行ってゴム買っておけばよかったのに、と後悔。
「あー、もしかしたら、あったかも......?」
「え、本当?」
「いや、分かんないです。もしかしたらあるかもしれないけど、ないかも、全然使わないから分からないです」
 ゴムは勉強机の引き出しの右の方にあるよと分かっているのに、反射的のようにウブぶってしまうのは日本のせいか処女信仰の2ちゃんのせいかそうでなくてもやつらは清楚好きめと心の中でぶつぶつと唱えつつ、引き出しのあちらこちらを捜す無意味な振りをする。でも、その意図は愛されたい好かれたい好意を持たれたいというその一点にあって、その背景には日本男児は本気で付き合うならビッチは嫌で経験人数少なめの清楚な貞操観念ある女子がいいんだろという想定があって、でも在り処の分かっているコンドームを使い慣れないものとして探す振りが健太先輩に可愛いと思われなかったら何の意味もないんだけどどーなの、結局家のどっかにコンドームあるならおれのチンコが萎まないうちにはよ出せやと思われてたらどーなの、という思考にも取り付かれつつで。そうなんだよなあ、結局コンドームあるんだよなあ、前に他の男とセックスした残りなんだよなあ、でもあたしここに越してきてまだ三ヶ月しか経ってないんだよなあ、でも実はそのコンドーム使ったの昨日なんだけどなあ、とか、あたしの思考がニコ中みたいに空気中に文字になって流れていったら健太先輩は一瞬であたしを人間じゃなくて犬にしてしまうわとか。
「あっあーありましたー、へえー、なんでこんなところにあったんですかねえ、へえー」
 健太先輩のゴムで被った丸まるとした長々とした性的なミミズみたいな突起があたしの中にぐぐぐって入ってくる正常位、健太先輩が上で浅く動く、あたしはやっぱりギャルみこしの人になっていてわっしょいと喘ぐ。もちつきみたいなリズム、あたしは別に気持ちよくなくて押し入れされているという感触だけが強くて、奥の方をいやらしくこすりつけて電気が走るみたいに感じさせたりとか健太先輩はまあそんなこともなく健全に膣にチンコをこすりつけるそれは非常に健康的な戯れであった。わっしょいわっしょいだし。あーなんか、そろそろかと健太先輩のマラソン選手みたいなはあはあが耳元で強まった頃にあたしはアパートだから声を殺しているふうイッた振りをして、健太先輩もそれからすぐにイッて出して出したので眠って、今わたしとムーミンに挟まれて寝ている、無自覚の幸せ者か。でも、別にこの人は理沙先輩の彼氏であってあたしを好きなわけではないから、この人は今幸せ者でもなんでもなく、むしろこの瞬間においては理沙先輩から寝取ったあたしの方が幸せ者なのか、とか全部どんぐりの背比べな気がする。