酔っ払って打ったやつ

 あー、ラージのカップに残り半分残った水を飲むのは肉体労働後の労働者みたいでもう飽きた。最初に注文したホットカフェラテの残りはもう冷めていて現実的なものに分離していて美味しくない、隣の客はもうホットドックを食べ終えて何でもなかったかのように新聞を広げて顔を隠していた、ああわたしは冷静沈着にならなきゃと思う程度にはちゃんとまともで、トイレに行こうとするとドトールの端っこにあるそれは男女兼用で一つしかなくて赤になっていて中に人が入ってますで、わたしが立っている奥まったトイレのドアの前が誰の目にも触れないことをちらと確認してからいらいらを空気中に発砲するようにして貧乏揺すりをしてトイレの順番を待った、あー健太くんがメスイキしちゃうこうしている間に、健太くんのアナルを肉棒で突きつつずっと健太くんのチンコを激しくこすっていた中谷くんの、女の子みたいに白い手の中に健太くんが出しちゃうよ、どうしようその時健太くんが、好きいって言ったら。うそつき。裏切り者。おまえなんかおにぎりの具になってしまえシーチキンだ海のチキンだ海の肉だ海に沈めてやるそんな浮気者は。
 健太くんが人面の魚になってわたしに殺されてバツになった目を瞑ったまま海のなかをすーっと下に落ちていくのを想像して、でもその肛門のところからは白い精子の糸が出てて、それが広い広い海の中で一片の汚れとなっているんだよ、と想像したところで、さっきの水を入れてくれた店員が出てきて、目が合った。
「・・・ありがとう、ございまーす」
 一瞬で目は逸れて、擦れ違いざまぎりぎり聞き取れるぐらいの小声でそう言って横を抜けていく、振り返ると、男のエプロンの後ろの紐が全部解けて腰のあたりでだらしなく垂れ下がっていて、なんだお前もさっきまで誰かとトイレに篭ってホモセックスしてたのか、なんて、この短時間で、こすってこすっていっちゃってニこすりで終わり終了みたいなことになるのはずいぶん玄人と考えながらトイレの内側のドアを閉めて、パンツを下ろして便利に座って一、二拍してから、じょぼぼぼ、という音を垂れ流して便器内に尿をぶっかけていった。うー。わたしが人工物に尿を排出している間に、健太くんが人間の手の中に精子を漏らしていたら嫌だなと思って、おしっこし終わったあと雑にトイレットペーパーで拭いたマンコに指を突っ込んで、ぎゅむぎゅむ強い指圧で、でも抜き差しするみたいにスピーディーに指を動かした。健太くんは今、中谷くんに肉棒を突っ込まれて感じて喘いでるかもしれないけど、わたしも同じであればいい。健太くんと同じふうに、自分ではないものに身体の中に突っ込まれて刺激されていじめられていっちゃえばいい。
 夢中になって便座に腰掛けたまま足を大きく開いてそこに三本の指を奥まで入れてそのうちネチャネチャ音がしてきて、健太くんの指がわたしのマンコに出入りする音がこの狭いトイレ中に響いてる、って感じで、でもここのトイレ一つしかないから誰か待ってたらまずいなあ、なんて考えるうちに誰かがここのドアをとんとんとんってせっかちに叩いて、あー、健太くん誰かが見てるよって健太くんはますます奥に深く指を入れて、それから健太くんはもう一方の手でわたしの唇を上下にいじめるみたいに開かせてそこに健太くんのチンコをずっぽり突っ込んで、あー健太くんいきなりそんな、みたいな。健太くんは指でわたしのマンコを刺激しながら器用にでもイラマチオになってえづかないぐらいに優しい動物みたいに口の中にチンコを出し入れして、あーそんなの美味しいよねって舌をぺろぺろさせて、あーいっちゃうって微かな声で漏らして、いっちゃういっちゃうって、あ、でも健太くんはここにいないって。でも健太くんも、どこかで中谷くんに突かれて、きっと、メスイキしてるって。
 はあ。すっかりイッて、すっきりしてトイレから出ると、そこに立っていたさっきこの扉を叩いていたであろう人は例の水を入れてくれた店員だった。思わず、くっと目を見開いて彼の顔を見る。よく見ると彼が、アッシュとかなんかおしゃれな感じに髪を染めてそれが爽やかなぐらいに短くカットしてさささっとワックスで動きを出したみたいな健太くんよりももっと若い24歳ぐらいの若者で、最近よく街で見る細身スキニーデニム男子みたいに細くて背はまあまあひょろっと高い男、であることに気づく。もしかしたらこの男は、今からバイトを上がって新幹線に乗って健太くんにウリをしにいくんだけど、その前に湧き湧きしてきている欲望を抜くかどうか迷っていてさっきからトイレを行ったりきているのではないか。付き合いの浅い彼女の家に行く前みたいに、むらむらして相手をいかせる前にすぐにいっちゃったらまずいから出張前に一回いっとこうかなみたいな感じでトイレで抜くことをようやく決意して先ほどトイレに篭ったわたしのドアを叩いたのではという疑惑が湧き上がる。かっと目を見開いて思わず彼をがんと見つめていると、彼はわたしを見、もう一回トイレ行きたくなって恥ずかしいっすみたいな意味合いを微かに含んでいるようないないような気がするふうに口元をくにゃんと歪めて軽く頭を下げ、わたしと擦れ違おうとした、でもわたしよりその男がトイレに近くなったときその男は途端に慌ててトイレのドアノブに手を掛けようとし、その気配を後方から感じた途端、先ほどの疑念が正しかったことを確信した、やはりこの男は中谷くんでこれから新幹線に乗って健太くんにウリをしにいって健太くんをメスイキさせるのだ!
「あっごめんなさい生理ポーチ忘れちゃった」
 踵を返したわたしはそう言って、半ば押すように男を払いのけ、再びトイレの個室の中に入ってしまい鍵を閉めた。はあはあ危なかった。健太くんとこれから触れ合う男に有利な条件を与えてしまう所だった。さっき尿を出したばっかりなので別に小便する気もなかったがなんとなくパンツをずり下げて便器に腰掛けた。とんとんとんとん。トイレのドアを叩かれている音がする、危ない、もうすぐに着替えて店を出て急いで新幹線に飛び乗らなければ健太くんとのウリの待ち合わせの時間に間に合わないのだろう。でも、この男が余裕を持たせて今あらかじめ射精をすれば、それから健太くんとのプレイが始まっても遅漏な健太くんを先にいかせてあげることができ、健太くんはこの男を気に入ってリピート指名した挙句、金銭的関係と現実の境目が見えなくなってこの男を愛し始めて同棲を始めたりして、週に三回も関東にいて会えないわたしのことを十年前に会った親類のように忘れてしまうかもしれないではないか。とんとんとんとんとんとん、さっきよりももっと激しくドアを叩く音がする。パンツを下げて便器に座っているものの、ちょろろろとも微塵たりともおしっこが出ない。代わりに、わたしは手で両耳をふさいで想像する。いまにもいつでも射精しそうな状態でプレイを始めたこの男は、健太くんが軽い挨拶的なスキンシップのつもりでチンコにさっと触れたのに感じてそれだけでびっと射精してしまって健太くんに引かれて、ちっ、そんなもんかよ最低だなもういいよって健太くんに舌打ちをされて愛想を尽かされているなか、もぞもぞと申し訳なさそうに脱いだばかりのパンツを穿きなおすのを。っていうか、男も女もカンガルーもペンギンもイグアナもツチノコも全部だめ、健太くんの射精も身体も精神も全部わたしのがいい。