酔っ払って打ったやつ

残念だ。非常に残念なことに、たゆんたゆんの彼女は次の時間も講義を受けるらしく、授業が終わると、別の教室に移動して行った。偶然同じ環状線で乗り換え、偶然特に混雑する一両目の端に乗り込み、偶然おれの手が触れて偶然お尻なんかに触れてしまうという偶然の事故は起こらなかった。残念だ。実は特にがっかりしていなかったが、その日一番落ち込んでいるふりをしながら、サラリーマンのおっさんと密着して環状線に乗っていた。違う。おれはおっさんと密着したい訳では断じてなく、むしろそれは不快である。が、女子とのラッキーハプニングの確率を上げるためには、行き帰りの環状線では、一番前の車両の一番前のドアから入って最も混む場所を確保するという試みに励むしかない。その結果、おっさんの臭い息を顔に浴びせられる羽目になろうと、おっさんの通勤鞄でわき腹を刺されようとも仕方ないのだ。むしろ、そうした外れがあるからこそ、可愛い女の子と密着できるという当たりがより輝くのではないかと思う。クジつきの駄菓子が全て当たりしか出ないようになってしまえば、当たりの価値は下落し、それは当たりではなく当たり前になるというものだ。
 次は天満に止まります―。おれは、運転手のいる空間との区切りであるガラスの透明な仕切りに背をもたれかけて立っていた。降車する人を通すためにドア近くにいた人たちが一旦降りて行く様子を、見るともなしになんとなく眺めていた。そして、新しく乗り込んできた女の子におれはちょっと驚いた。馬鹿みたいに広がったスカートを穿いたロリータファッションの女の子だった。別にそういう服を着ている女の子なんて珍しくないのだが、ぼうっとしている日常の中で、いかにも非日常的な彼女らが現れると、遠慮せずにまじまじと見てしまう。あれはブスをますます引き立たせる格好だと思うのだが、ああいう格好をしているのは高い確率でブスが多い。でも、この子は可愛い顔をしていると眺めていると、人にぎゅうぎゅうと流された彼女がすぐ正面までやって来たので、どきりとした。目は合わないように少し目線を下にやると、ひどくヒラヒラしたブラウスが半袖なことに気付いて、違和感が湧いた。初旬とはいえ十一月だというのに寒くないのかと二の腕を観察すると、服から出たナマの素肌に鳥肌が立っていて、なんだかそれに興奮した。他の乗客がセーターを着ていたり、パーカーを羽織っていたりするのに対して、薄っぺらいブラウスから寒そうに肌を露出する彼女がなんだかひどく哀れっぽく感じて、その頼りなさにおれはムクムクと欲情してしまった。発車した電車はガタンガタンと振動を起こしながら走り、細いヒールでも履いているのだろうか、彼女はときどきバランスを手放しかけて、おれにもたれかかるように前傾姿勢になったりした。もしくは彼女は足が生えていなくて、地面に足をつかない少女で、一人だけ宙から三センチぐらい浮いていて、本当はわずかに空を飛んでいるのに、おれを煽って遊ぶためにわざと体重を預けてきているのかなと思った。おれのチンコがじりじりと存在を主張していて、彼女がまた前にもたれてきたとき、彼女のお腹の下部の辺りでそれがそっと擦れた。さっとすれちがうような感じで大した感覚はなかったけれど、今のは少しだけ痴漢ぽかっただろうかと思った。でも、電車の振動に合わせて、また彼女がおれにもたれかかり、さっきよりもはっきりとチンコを押したように感じた。それにピクリと反応したチンコに、いやいや反応してんじゃねえ、でも反応しちゃうよね、仕方ないよね、っていうかこの女、わざとやってるんじゃないのかとチラリと思う。わざとらしくないさりげない様子を気取って周りの乗客たちに目線を流した。誰も自分を気にしているようではなく、ふぅと小さく息を吐きだした。自分の下半身に目をやると、混雑のせいで見通しは悪かったが、おれのチンコの膨らみに女が腹を押しつけてくるのが見えて、全身の血がそこに集中して凝縮したように固まっていく。なんだ痴女かとも、いやそんなの都市伝説だろとも、よく分からないけど美人局的な何かかとも思ったが、でもチンコのことしか考えていなかった。俯いて、その様子をひらすらに焼きつけていた。再び顔を上げれば周囲の人間がその現場をがんと目撃していて、むしろ逆痴漢に近いことをされているおれが、この人痴漢ですと突きつけられてしまうのかなとも思ったけど、まるでチンコが女の中に子宮にこすられているかのような事態の方におれは夢中だった。次は大阪に止まります―。運転手が、おれの降りるはずの駅名をアナウンスしたが、できればもうしばらくここに乗っていて、チンコを擦られ続けていたいと思った。でも、ドアが開くと、乗客のほとんどがそこで下車して混雑が途端に解消される、いつも通りの気配を感じたので、これはもうどうにもならんと諦め、おれもドアへ足を踏み出そうとする。そのとき、チンコが張った部分を後ろから手でひと撫でされたのを感じ、自分がまるで痴漢されて喜ぶ女の子になった気がしてゾクンとした。そうか、これはチンコじゃなくて肥大したクリストリスか。もしかしたら、おれの股の間は切れ込みが入っているのか。自分が後ろを振り向こうとしていることをすごく意識しながら、残された車内の中に視線を投げる。彼女がまっすぐおれを見据えていて、口パクで鮮やかなピンクの唇が動いた。
「(シ)(ネ)」
 そのあと、彼女の唇がにやりと動いて、ネコを虐待死させた少女のような残虐で甘やかな微笑みをたたえ、ドアがぷしゅう、と閉まって見えなくなった。その顔を見て、ラッキーという以上に、いったい何に遭ったのかと呆然とする気持ちで、のろのろと歩いた。エスカレーターを下っていく途中に、スリでもされたのかと思いつき、鞄の中をごそごそやってみたけれど、財布も携帯も何もなくなっているものはなさそうだった。スリじゃないのか、じゃあ本当にただの痴女的な人なのか、そんな人がいるものなのかと考えつつも、女の腹の感触と、最後の笑顔を思い出している自分が苛々していることに気付いた。最後の彼女の笑顔は、楽しかったでしょ?とでも言いたげに高慢ちきじみていた。興奮はさせられた、が、よくよく考えてみると、おれは自発的でないハプニングに巻き込まれるのが嫌いなのだ。リードを外した途端、飼い犬がひとりでに走り出していってしまうみたいに、自分の心の操作ハンドルを落としてしまって、それを他人や外的なものごとにあれこれやられるのが嫌なのだ。それに、単にチンコも苛々していた。中途半端な興奮と接触を与えられたのでは足りず、馬鹿みたいにずんずん腰を揺すって、女の中に激しく打ち付けたい思いにかられら。
 駅のトイレの個室に入り、ますます苛々が増すのを感じながら、急いでベルトを外して、パンツもずら下げた。もたれかかるように立った壁に片手をつき、さっきの女に後ろからシゴかれているのを想像した。あんな生ぬるいひと撫でじゃなく、ほどよく力を込めて、徐々に手の動きを早めながらシコっていく。ブラウスのボタンを外してブラジャーもずらした後ろの女が、おれの背中にナマの胸を押し付けながらシゴいてくるのを想像する。おっぱいが柔らかくつぶれそうなほど密着してきて、固くなった乳首の感触まで背中から感じる。おれは女にシゴかれたまま、手首をひねって後ろの女のマンコに指を入れようとする。指が膣内の熱い肉にじゅわっと吸い付かれる。指を動かしてやるたびに、肉からあふれる汁がびちゃびちゃになり、女はひくんひくん震える身体をおれの背中に伝えながら、興奮した手つきでチンコをシゴく。出そう。出る。出したい。
「あー、もうだめだあ」という喘ぎのようなものを口の中だけで転がしたあとすぐに、トイレの壁を精子で汚した。