いま。中学二年生の私の股の間にぺろぺろと唾液をすりつけていた男が、私の中に触れようとして膣の入り口に指を突っ込みかけたのを見て、うえっ、うえっ、とえづいた。それはあの日以来またずっと縫い付けて閉じてあった所のはずだったから、指すら入るような穴はないはずだから、わたしは吐いた。お昼に食堂で食べたラーメンも紙パックのアイスティーも美術室で友達とつまんだお菓子も、全部をかき混ぜて胃液にまみれたそれらをぶちまけた。捲り上げられた紺色のスカートと男の髪と自分の足、に吐瀉物が飛んだ。片山口、です。ポー、と間抜けな音を立ててドアが開いた、男は慌てたように急いで立ち上がって出口に向けって駆け、ガンガンガンと音を立てて階段を下りていった。
ゲロまみれの制服で、最寄り駅でもない次の停留所でダッシュで降ると、近くの駅のトイレに駆け込んだ。また吐き、泣いた。駅のトイレは汚いのだけど洋式便所に顔を突っ込んで泣きながら吐いた。もう吐くものが胃にあまり残っていなくて、さっき吐いた残りのウサギのゲロみたいなものと、水っぽい胃液しか出なかったけれど。とうとう吐くものもなくなると、そのまま床にへたりと座り込んでしまう。ふるえながらそれらを流した。本当はすごく股を洗い流したかったけどウオシュレットはなかった。トイレットペーパーで口を拭ってトイレに捨てて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってシャツを拭いて、シャツを拭いて、それら全てをジャーって水に流した。そんなに拭いてもまだ臭くて、ああ私なんて臭いんだろすごく臭いと思って自分の匂いでまたえづきそうになってしゃくり上げる。だめだ、と思って、鞄に手を伸ばしてスマホを取り出す。少しでも安心したくて、保存しているくまちゃんの沢山のムービーの中から適当に一つを押して再生した。画面の中でくまちゃんが両手をもふもふと叩いて大きな口を開けて笑っている顔が見える。撮っているのは私だから、「くまちゃん笑いすぎだよー」という私の声はよく聞こえて、くまちゃんの声は少しくぐもって聞こえた。音量を上げると、「だって、ペンギンなんでしょう?」と笑うくまちゃんの声がようやく耳に届いて微かに緊張が解けた。「ペンギンはさー、やっぱりちっちゃいやつより大きい皇帝ペンギンなんかがいいよー」と私の声がトイレに響く。何がペンギンで皇帝ペンギンだったのかは覚えていないけれど。いくつもいくつもムービーを再生して、ここにいないくまちゃんを画面の中から引っ張り出すみたいに、愛おしいその姿を凝視した。
ゲロまみれの制服で、最寄り駅でもない次の停留所でダッシュで降ると、近くの駅のトイレに駆け込んだ。また吐き、泣いた。駅のトイレは汚いのだけど洋式便所に顔を突っ込んで泣きながら吐いた。もう吐くものが胃にあまり残っていなくて、さっき吐いた残りのウサギのゲロみたいなものと、水っぽい胃液しか出なかったけれど。とうとう吐くものもなくなると、そのまま床にへたりと座り込んでしまう。ふるえながらそれらを流した。本当はすごく股を洗い流したかったけどウオシュレットはなかった。トイレットペーパーで口を拭ってトイレに捨てて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってスカートを拭いて、トイレットペーパーを千切ってシャツを拭いて、シャツを拭いて、それら全てをジャーって水に流した。そんなに拭いてもまだ臭くて、ああ私なんて臭いんだろすごく臭いと思って自分の匂いでまたえづきそうになってしゃくり上げる。だめだ、と思って、鞄に手を伸ばしてスマホを取り出す。少しでも安心したくて、保存しているくまちゃんの沢山のムービーの中から適当に一つを押して再生した。画面の中でくまちゃんが両手をもふもふと叩いて大きな口を開けて笑っている顔が見える。撮っているのは私だから、「くまちゃん笑いすぎだよー」という私の声はよく聞こえて、くまちゃんの声は少しくぐもって聞こえた。音量を上げると、「だって、ペンギンなんでしょう?」と笑うくまちゃんの声がようやく耳に届いて微かに緊張が解けた。「ペンギンはさー、やっぱりちっちゃいやつより大きい皇帝ペンギンなんかがいいよー」と私の声がトイレに響く。何がペンギンで皇帝ペンギンだったのかは覚えていないけれど。いくつもいくつもムービーを再生して、ここにいないくまちゃんを画面の中から引っ張り出すみたいに、愛おしいその姿を凝視した。
