地味な私・三谷 凛(みつや りん)は、いつになく困っていた。
それが単に、世間一般的にダサいと言われる銀ブチの丸レンズのメガネをかけているからでも、就職活動中とも疑われそうな新品の黒スーツに身を包んでいるからでも、染めたことのない黒い髪を首の後ろで1つに結っているからでもない。

入社して1年目、まだ研修期間中の私が、社内の歴史上最もヤバイ奴だと噂になってしまったのだ。

ここ3ヶ月の間に指摘されたミスは10件以上、うち自ら何度も確認した書類は9件にも関わらず、指摘を受けるまでそのミスに気づかないのだ。
さらには大事な接待の時にお茶汲みをして躓き、テーブルに乗っていた大事な書類をおじゃんにしてしまう仕末。

おかげで社内の笑い者にされており、元々人付き合いが苦手な性格もあって同期とすら打ち解けず、ランチの食堂でもボッチになってしまっている。

「はぁ……」

今後のことを考えて、我ながら大きくため息が漏れてしまった。

確かに元々ドジ気質で、よく何もないところで転んだりテストの時に数字を間違えてニヤミスしたりすることは多々あったけど、パソコン作業は得意な方だったし、それなりに自信もあった。
だから事務的処理を行うオフィスレディ……俗に言うOLでもやっていけると思っていたし、人を下から支えるような大事なポジションに思えてやりがいを感じ、就職を決めた。

それがこの有り様……もうここまでくると全てが崩壊している気がする。

首を切られるのも時間の問題なのではないかとすら思えるこの状況下で、それを更に進行させているものがある。

私のミスにいち早く気付き、指摘し、修正を命じる者……つまり私を指導する上司だ。