「またフッたらしいよ」

「さすがだわ。鉄の女王」

「言い寄られても臆することなくノーをいうってさすが美人はいうことがすごいわ」

またわたしの噂話か。

月に一回は必ず給湯室からもれる、わたしへの下らない話。

泣き言いって後輩女子社員に泣きを入れているんだろうか、ウチの後輩男子は。

バカバカしいな、何をしに会社にきているんだろう。

そう心の中で文句を垂れるのは、わたし、桜庭南月(さくらばみつき)。

もうじき三十路に手がかかる、ぎりぎり20代の29歳。

大学を卒業して、地元でも有数の総合的な企業に入社した。

元は老舗のソースや醤油などの食料品を扱った会社だったが、手広く商売を続け、今の大きな企業に変貌した。

最初の所属先は営業事務だったが、年を重ねるごとに異動になり、今は経営戦略室という、ちょっとだけ上の部署に所属している。

自分はたいしたことのない女だ。

なのに、イメージだけが先行してしまう。

近づく男はみな、わたしのことを高級アクセサリーでもみつけたような顔をする。

いざ、付き合ってみたら、

「そういうやつだとは思わなかった」

「見かけによらず、だな」

と、不満をぶつけてくる。

しかたないじゃない、こういう性格なんだものといってみれば、

「外じゃあツンツンしてるんだけどな」

と、やはり見かけだけで判断される。

これならばもうそういう男ばかりで疲れてしまったので、自分の武器を最大限利用して生きてやろうと思った。