「何いってるの」

おいしいのはありがたいことだけど、彼から流れる空気にこたえることはできない。

拒否したことに対して、彼は下を向いている。

「だって僕は……」

「まずは体調なおさないと」

といっていると、突然立ち上がり、男の子から後ろから抱きしめられた。

「……お願いだから、僕のそばにいて」

「冗談いわないで」

彼の熱を背中で感じる。

それを受け入れるわけはいかない。

だってわたしにとって大切な生徒のひとりだから。

傷つけさせたくはない。

あんなに弱々しかったのに、わたしの腕をつかむと立ち上がらせソファに座らせた。

「僕は……南月先生のことが好きなんだ」

「やめなさいって」

「ずっと想ってきたんだ、先生のこと。気持ち、抑えきれない」

彼はわたしの上にのしかかってきた。

やめて、と、いったのに、彼は自らの唇をわたしに押し付けた。

突然のことで防ぎようがなく、顔を背けても彼はやめようとしなかった。

「いや、やめて」

これ以上エスカレートしたら彼のためにならない。

精一杯の力をこめて、彼の体をはねのけた。

彼は力なくソファの下に敷かれたカーペットに体を横たえる。

「……風邪、ちゃんと治してね。おやすみ」

と、逃げるようにして帰った。

後日、彼に悪い気を起こさせたと反省したわたしは家庭教師をやめた。

あの彼は無事に第一志望の難関大学に合格したと風の噂で聞いたけど。

今頃、綺麗なお姫様みたいなひとと幸せに暮らしてくれればいいんだけどな。