「昨日から、何も食べてなくて。本当は今日、キャンセルしようとしたんですが……」

「わかった。今日の授業はなしにするから。キッチン借りてもいい?」

「……はい」

いつもは2階の彼の部屋にいくのだが、ふらふらとした歩き方でそのまま階段から転げ落ちたら大変だ。

1階のリビングダイニングに通してもらい、キッチンを借りた。

ぼんやり座っている男の子をみながら、とにかく温かく栄養のあるものを食べさせようとした。

「できたよ」

「わ、すごい。先生の手作りだ!」

一人用の土鍋のふたをあけると、一気に湯気が立つ。

湯気と同時に出汁の香りが部屋中に広がった。

なんてことない、たまご雑炊。隠し味にちょっとだけ工夫した。

彼はふうふうと息をふきかけ、食べ始める。

「おいしいです」

「よかった。口にあって。もう少し豪華なほうがよかったでしょ」

「そんなことはありません。だって南月先生が僕につくってくれた、特別なものだから」

「よかった」

彼は目尻にしわをつくりながら食べ続けて、気がつけば鍋いっぱいにつくった雑炊がからっぽになってしまった。

「ごちそうさまでした。南月先生」

「いいえ、こちらこそ。それぐらい食欲があれば元気になれるかな」

そういうと、急に彼がしおらしくなった。

「あの、ずっと作ってほしいです。南月先生に」