恋のお楽しみは年下上司と業務外指示から

「ちょっとカバン返してよ」

あと少しで自宅マンションの部屋へとたどり着く。マンション1階にあるコンビニの角を曲がったところでわたしは立ち止まった。

「遠慮しなくてもいいんですって。南月先生のお家まで運びますから」

「いいよ。この辺で」

向かい合わせに立つ一樹くんに右手をのばし、カバンを催促すると、持っていたカバンを渡してくれた。

「南月先生は、彼氏いるんですか」

「何よ、急に。わたしのことはどうだっていいの。一樹……天堂室長はいるんでしょ。そうやって年上をからかわないで」

「いませんよ。彼女なんて」

一樹くんの言葉に一瞬、ほっとした自分がいる。

それを見透かされたようで、一樹くんの目がわたしをとらえるように睨む。ドキッとする。そんな目でわたしをみないで。

「そっか。いないんだ。これは狙い目ですね。僕がなりますよ、南月先生の彼氏」

「だからそれは」

「一旦決めたものは白紙にできません。高校時代からずっと想ってきていますから。ちょっとやそっとじゃあ、諦めませんよ」

一樹くんは街頭の薄明かりに照らされながら、くもりのない目をしてわたしをずっとみている。

だからすぐにでも付き合おうか、なんて気安い返事で軽く交際だなんて、学生のノリじゃあるまいし。

もう過去のことなのに、一樹くんはわたしのことをずっと忘れずにいてくれていた。

嬉しいけれど、一樹くんを傷つかせたくないし、付き合っても長続きできる自信がない。

「何、黙ってるんですか。告白ですよ、僕からの」

わたしの心配をよそに一樹くんは怒りっぽい口調で話しかけてきた。