恋のお楽しみは年下上司と業務外指示から

これは頭痛のタネになりそうだと、ひとり頭を抱えながらも一通り仕事をこなす。

取引先にメールを打って、後輩には仕事の段取りを教えて、高城とは今後の企画に関する案件をまとめ合う。

雑務をこなしつつ、残業を終え、仕事のキリをつけた。

「高城、先帰るわ。あとお願いね」

「うん、わかった。桜庭、お疲れ」

カバンを持ち、部屋をあとにする。

そういえば、天堂室長、もう帰ったのかな。

1階のロビーに降り立つと、オレンジ色の明かりが灯っている。

中央に設置されたソファにひとり、長い足を投げ出し座っているひとがいた。

わたしを見つけるとすくっと立ち上がり、昔の名残の笑顔をみせた。

「南月先生、一緒に帰りましょうか」

「天堂室長、これは、待ち伏せか何かですか?」

冷たく言い放つと、天堂室長は口元に手を添えて笑った。

「再会を祝してお付き合い願えないかと」

「お先に失礼します」

にこやかなままの天堂室長を振り切り、そのまま職員出入り口へと進んで行く。

「冷たいんですね。あんなにキス、乗り気だったのに」

後ろから投げかける天堂室長の声に、急に足が止まった。

しぶしぶ後ろを振り向くと、天堂室長がわたしのもとへと駆けよった。

「やめて、そんなこと言うの。他の誰かに聞かれたらまずいでしょ」

「じゃあどうしてキスを避けなかったんでしょうね」

天堂室長はわたしの顔をじっと覗き込んでいる。好奇心の目なのか、それとも。

「……それは」

「さあ、いきましょうか」

天堂室長はわたしのカバンを軽々と持つと、先にいってしまったので、後ろをついて歩く。

不思議だ。この間まで高校生だった一樹くんと一緒に帰っているなんて。