恋のお楽しみは年下上司と業務外指示から

あのときの雨の日の夜のことを思い返す。

雨が窓を強く打ち叩くように、一樹くんが一方的にキスをする。

あれから他のひとと付き合って、もちろんキスをしたけれど、こんな情熱的なキスはなかった。

体の奥のスイッチを押されたようで、熱く感じる。

ようやく離してくれたときには、自分の体がうまく支えきれず、一樹くんに背中と腰に手をまわして支えてくれた。

「南月先生が好きでした。高校のときからずっと」

一樹くんは想いを届けられたようで清々しい顔つきになっている。

「南月先生も僕のこと、好きですよね?」

よどみない声を一樹くんは発する。

「まだわたし、一樹くんのこと、好きっていってない」

「そうですか。そうしたら僕にも考えがあります」

はあ、と強いため息をもらし不満そうな顔をする。

「そんな。公私混同も甚だしいって」

「ようやく見つけたんですから。必ず僕だけのものにしますよ、南月先生」

そういって満足そうに笑っている。

わたしは何も答えられなかった。

「キスは軽く挨拶がわりだと思ってください」

もうこんな時間か、と一樹くんは自分の腕時計を気にして、

「これから僕の指示どおりに動いてもらいますよ。一緒に帰ると南月先生が傷ついてしまいますから、僕が先に戻っておきますね」

涼しい顔をして、一樹くん、いや、天堂室長は資料室から出て行った。

あっけにとられて、力が抜け、しばらくその場に座り込んだ。

こんな再会があるんだろうか。

まだ唇に一樹くんのキスの余韻が残っていた。