恋のお楽しみは年下上司と業務外指示から

15階建ての本社ビルの10階にわたしやちひろのいる部署があり、上の階は人事だったり、経理だったり、総務があり、下の階は研究室だったり、資料室だったり、以前いた営業部もある。

前室長が別の部署へ配置転換されるのでその仕事をみんなで引き受けつつ、慌ただしく3月が過ぎ、新年度がスタートした。

14階にある大会議室では入社式が滞りなく終わり、新人たちの紹介をみる。

どうやら一人研修後にウチの部署に配属されるらしい。

前室長と新しく入る新室長との仕事の打ち合わせが済んで午後に入ってから新室長がわたしたちのいる部署にやってきた。

ドアを開けると一段と色めき立ち、座っていた社員が立ちはじめたので、わたしも高城と一緒に椅子の横に立つ。

紺色の細身のスーツに白いシャツ、同色のネクタイを締めて着こなしている。

ふんわりとした黒髪の短髪に前髪は長めで、もみあげ、襟足は刈り上げてすっきりした印象。

両サイドの髪の毛は耳にかかっている。

二重まぶたからのぞく視線がぶつかる。

まっすぐすぎで直視できない。

笑い皺ができている。昔みた笑顔だった。

動揺しているのがわかったのか、向こうはすぐに口元だけがかすかに笑った。

わたしは机の上に目を落とす。

どうして、こんなところに。

「年下なのにしっかりした感じだよね、桜庭」

横にいる高城が声をかけたので、顔をあげると、やたらとまぶしくみえた。

女子も男子も老いも若きもみんな、目がハートだ。

「はじめまして。天堂一樹ともうします。外食事業を展開することになりました。一緒に盛り上げていきましょう」

以前よりも声が低く、頭から足の先まで声が響いて聞こえる。

とりまく空気までも惑わしている。よくいうイケメン。

別にどうでもいい。

「ちょっと片付けてくるわ」

「桜庭、ちょっと待って」

高城がとめるのを聞かず、拍手の渦のなか、わたしは席をはずした。