静かな冬の雨の夜は、あの日のことを思い出す。

あれはわたしが大学生だった頃のお話。

高校生のあの子だった。

ある程度のお金持ちだった男子高校生は、高校2年生を境に成績が伸び悩んでいた。

わたしが担当した生徒たちが軒並み成績アップすると評判をききつけた生徒の親からご指名を受けた。

はじめて彼の御宅へお邪魔したときのことを今でもはっきり覚えている。

さらさらな黒髪の短髪。

肌が白くてわたしよりも背が高くて細かった。

凛々しく揃えられた眉毛に二重まぶたからのぞく涼やかな瞳。

すっとした鼻筋にちょうどいい厚さの唇。

一見すると、どこかの男性アイドルグループにでも入っていそうなぐらいのルックスだ。

学ラン姿の彼はわたしをみるなり、毎回顔を赤らめていた。

けれど、よくある憧れの光景のひとつだな、ととらえつつ、真面目に勉強を教えた。

高校3年の冬、成績があがり、これから大事な受験に向けてラストスパートをかけているところだった。

その夜はみぞれまじりの雨が降っていて、かなり底冷えした。

玄関のドアホンを押して声をかけると、男の子は咳をしながら鼻声で応対した。

「すみません、お願いしてもよろしいですか」

弱々しい声だったので、もしかしてと思いながら玄関のドアを開けると、パジャマ姿の男の子が床に座り込んでいた。

その日両親は仕事で出張しており、お手伝いさんも急用で帰ってしまって、家には彼ひとりだった。