「…分からないの。ただ、あの子は誰かに憎まれるような性格じゃなかったから」

菜摘は、そう言って破顔した。

「私紀ノ川さんになんて言って謝ればいいのか、もう、分からない…」

「…会わない方がいいと思う」

控えめに述べた由里は、蝶の顔を思い出していた。

「あの子、無理しちゃうから。会ってもお互い辛くなるだけだし、謝罪を求めてはいないと思うよ」

(それに、あの子多分、分かってたと思う)

そういうことには鋭かった蝶だから、と思った由里だったが、確証もない憶測なので心の中にしまっておいた。

納得したように頷いた菜摘は、それでもごめんなさいと言い続けた。

最寄り駅が近づき、席を立った由里は、最後に菜摘の顔を見た。

「…じゃあね」
「うん。じゃあね」

一瞬視線が交錯し、離れる。

空を振り仰いだ由里がもう一度前を向いた時には、菜摘の姿はなく、ホームを過ぎ去ったばかりの電車が残した風が吹いていた。

もうきっと、会うこともないだろう。

しかし、由里は少しばかり清々しい気分になっていた。

多分それで、よかったのだろうから。