「きっと優希はそうじゃなかった。あの子の一番は、紀ノ川蝶だった。誰より私が知っていたの、あの子の視線の先を」

初めて知らされた一年前の事実に、由里は驚愕を隠せなかった。

「嫉妬していた。ばかみたいだよね」

好きだったの。

そう、しゃぼん玉の割れるような声で繰り返した菜摘に、由里は返す言葉を失った。

「だからといって、傷付けていいことにはならないなんて、よく分かっていた。あの子、私が咄嗟になぜだかついてしまった嘘を否定もせずに黙ってた」

後からどうしてだったのか聞いたの、と菜摘は静かに言った。

「優希が何かで苦しんでいたのを知らずにいた、自分が殺したも同然かもしれないって」

あんなに苦しんだのに。
あんなに苛められていたのに。

「何も言わずに、…大丈夫って、笑ってた……」

腹の奥から絞り出したような声に、今度こそ由里は何も言えなくなった。