それだけで人を疑うのもどうかと思うが、噂は噂を呼び、三日後には蝶は完全なる悪人に仕立て上げられていた。

(あーあ…可哀想)
由里は単純にそう思っただけで、そんな自分に罪悪感も感じなかった。

だってそうじゃないか。
赤の他人も同然、同じ部屋で勉強しているからといって情が湧くはずもない。

ひどいと言われても、人は所詮そんなものだ。憐れむのは簡単だけど、心底その気持ちを慮ることは本当に難しい。ましてや震災などで亡くなった方々などそうだ。痛ましい出来事だとそう言って、自分でさえもそう思っていると思い込んでいるだけに過ぎない。

近しい人物でなければ、真にそれを悲しむことなど出来うるはずがないのだ。

由里は、自分達のそういう本性をすでに知っていた。

だが、そんな由里でも、菜摘の本心は分からなかったのだ。

「菜摘は、どうしてあんなことを言ったの?」