列車の振動に合わせて、由里の体が揺れる。

伏せたまつ毛は、よく見なければわからないほど微かに濡れていて、視線を動かさない目が虚空に据えられていた。

どうしようもなく、心が壊れそうになった。

蝶の何もかも預けたような表情や、高月の狂おしい瞳が何度も脳裏を過ぎる。

その度に胸の奥に何かが蠢いて、その二人の顔を真っ黒に染めていく。

(壊れても…いいや)

由里は、静かに瞼を閉じた。

見たくなかった。

閉じ込めた心の奥底が呟く。

耐えきれなくて逃げ出したから、そのことが自分を結局は資格がなかったのだと責められているようで。

強くはない自分を知っていたのに、揺れないと思っていた想いが軋んだ。

(好きって…何だろう)
その気持ちが、迷うことのない道しるべだった。その道しるべが消えた今、由里には分からない。

どこが、私の居場所なのだろう。
だって、由里にはもう、信じられる自分も、信じられる世界も、どこにもない。