「私のせいだ…」

咄嗟に高月の陰に隠れて、彼女を傷つけられればいいと思った。

その気持ちは紛れもなく真実だった。

それなのに、彼女が本当に傷ついた声を聞くと、心が削り取られた。

傷ついて、傷ついて、傷付けて、血を吐くような声だった。淡々と吐血する、声なき声の悲鳴を、蝶は無視して刺し貫いたのだ。

静かに咽び泣く蝶に、高月はそっと唇を重ねた。

目を見開く蝶を、逃がさないように力を込める。蝶は弱々しく袖を掴んだが、高月はもう離さなかった。

高月の熱が伝わって、体温が上がるのが分かる。息も出来ずに蝶は高月に体を預けた。

(もう、私は…)

誰のものになってもいい。

彼女にはもう、二度と会えない。

絶望的な気分になった蝶は、されるがままに目を閉じた。

誰か、彼女が傷ついた分と同じだけ、私を傷付けて。
ただ、それだけだった。