振り返った高月は、蝶の怯えた表情に戸惑った。自分の制服を掴む腕は微かに震えていて、思わず軽く抱きしめた。

「……っ」

息を呑む声がして、見ると彼女が唇を噛み締めていた。

あの、と声をかけようとした高月は「ごめんなさい」という彼女の声に遮られた。

「…ごめん、なさい」
もう一度絞り出された声が、痛々しいほど掠れていた。

ぴくりと蝶が動く気配がして、それでも顔を上げない様子に高月は二人を交互に見つめた。

最後に見た彼女の顔は、今にも泣きそうなのを堪えているかのようで、しかし決して泣かなかった。

「もう、会わないから」

囁くような声に、蝶がばっと顔を上げる。

だが、彼女は駆け去っていった後だった。

「………、っ……」

その振り返らない後ろ姿を見て、それが自分のせいであることを痛感して、蝶は瞳を歪ませた。