「蝶」

遠慮がちに戸を叩いた声に、母が来たと解った。

「…そこに、置いておいて。ごめん」
「分かったわ」

部屋の中でうずくまった私は、静かに返事をした。朝食だろうが、今は食欲がなかったのだ。

私が学校を休み始めたのは、二週間前からだ。今は、図書館登校と呼ばれる方法を取っている。

クラスメイトとは勿論全く会っていなくて、親友の由里のテスト勉強に付き合って久々に外に出たくらいだ。

このままではだめだと思っていても、足が学校の方角に動かないのだ。

差し込む朝日を拒むようにカーテンを閉めると、温度の低い部屋の中で冷えた両腕を抱え込んで布団の中で丸まる。

細かな雨が窓を叩く音が聞こえて、あの傘をまだ返せていないとぼんやり考えた。

今日は奇しくも金曜日だ。