「おはよ、由里」
「蝶!おはよう」

退院したのね、と呟いた由里の顔が心底ほっとしているようで、蝶も表情をほころばせた。

「…由里、あのさ」
「ん?」
朝の通学路はきんと冷えていて、少し鼻がむずむずする。

だが、その澄んだ空気が好きだった。

蝶は、恐る恐る口にした。

「由里、好きな人とか…いる?」

その言葉に、由里は歩きながら飲んでいたペットボトルの緑茶を吹き出しそうになった。

「な、なに、いきなり」

動揺しているのが見え見えで、思わず笑ってしまう。

「いるの?いないの?」
意地悪な言い方をしてみると、由里はそっぽを向いて、かすかに「…いる」と言った。

目を見開いた私は、赤面する由里に問いかけた。

「どんな人?」