ごそごそと瓶を探しているらしい母に向かって、見えてはいないだろうけど、蝶は精一杯に微笑んだ。

「いつもありがとう。迷惑かけて、ごめんね」

その言葉に、母が驚いたように振り返った。

「急にどうしたの」
不思議そうな顔になる母に、「言いたくなっただけ」と返す。

その皺の目立つ目元に、歳をとったのだなと実感して、何だか切なくなった。

棚から取り出されたイチゴジャムをパンに念入りに塗り、頬張る。

「美味しい」
と言うと、変な子ねと笑われた。

蝶が家を出ていく。

その姿を見送って、母は一人でピーナッツバターを食パンに塗り始めた。

たっぷりとつけられたピーナッツバターが、ふいに濡れた。

雫が何度も、いくつも落ちて、ふわふわだったパンが湿る。

「駄目ね…」

頬を拭った母は微笑んで、パンにかぶりついた。