しばらく雨の中を二人で黙って歩いていて、由里がしびれを切らしたように言った。

「蝶、なんであんなに素っ気なかったの」

「……………」
ついに聞かれたか、と肩を落とした。

目上の人との対応に慣れた私は、いつもならそつなく話を出来るはずなのだ。

だのに、自分でも分からない。

どうしてあんなにあの場から、離れたいと思ったのか。

なぜあの澄んだ目に、目を合わせていられないと思ったのか。

「…何も無いよ。気分」

その誤魔化すような答えに由里が何も思わないはずはなかったが、見逃してくれたようだ。

雨音にとけてしまうくらいの小さな息を吐いた蝶は、傘の取手を握りしめた。