「こんにちは」

汗ばんだ手を握りしめ、隣の大人しそうな女の子に声をかけた。

セミロングの髪がふわっと揺れて、きょとんとした目がこちらを向く。

「あ、こんにちは。蝶さん?きれいな名前だね」

「ありがとう」
そんなことを言われたのは初めてで、驚いてしまう。

「私は秋山こより。よろしくね」

陽だまりのように微笑んだこよりに、蝶はこんな子もいるんだ、と新しい発見をした気分になった。

「蝶でいいよ、よろしく」
笑い返して、ぎこちなくなっていないかなど思いをめぐらせる。

ふっと顔を上げて、反射的にぎくりとした。

教卓の前のあたりの男子たちが、あの雨の日、蝶を笑った男子達の背中だと直感で気づいたのだ。

(さっきは気が付かなかったけど…)
あまり好意的な視線が少なかったのも、これに関係しているのかもしれなかった。