『待っている人がいるのに』

「……………」

『みんなだって成長しているんだよ。昔のことくらい水に流すし、反省もしている』

「していない人だって何人もいるよ」

『それは、そうかもしれないけど』

由里はもどかしく言った。

『今、行かないとずっと行けなくなるよ』

それは、心が動いた瞬間に、変わるべきという示唆だった。

その言葉に、蝶は言葉に詰まった。

「だけど」
一生行けなくてもいい、その言葉をすんでで飲み込んだ。

それを言ったら、きっと絶対に戻れない。

待ってくれている由里を、深く突き刺す言葉だと感づいた。

『何があるから、行きたくないの』

由里の質問に、蝶は言葉を探した。

「明確にってわけじゃない。あの頃は、周囲の視線も囁き声も、全部が自分を笑っているように見えて足が動かなかった。今は…行かないことに、慣れてしまった」

唇を噛み締めた蝶は、情けなさに体をうずくまらせた。