とかく、南の島いうものは、のんびりとしている。
海や緑や、人や生き物も。
ありとあらゆる全てが。
時間さえも、大河のように、ゆるりゆるりと穏やかだ。
「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・。
ファイトっ!もう二・三発!
頑張れっ、私!」
その穏やかな時の流れに逆らって、私は必死にウォーキングに励んでいた。
だって、仕方がないのだ。
我那波島に来て、まだ三日しか経っていないのに、私は太ってしまったのだから。
理由は簡単だ。
よしオバアの「カメーカメー(食べなさい食べなさい)攻撃」が、絶え間なく襲いくるからである。
「新しい水着も買ったのにっ。
このままじゃ着られないっ!
とにかく痩せなくちゃっ!」
あの「あおい海」を目の前にして、お腹が出たから泳げませんなんて、冗談じゃない。
故に私は必死に歩くのだ。
燦々と太陽降り注ぐ島道を。
かといって、せっかくの旅行先なのに、ジャージ姿で汗を流すのは、あまりにも空しいものだ。
だから、せめてもの慰めとして、私は白いワンピースを着込んでいた。
お気に入りの一張羅だ。
ふわふわと風に翻るフレアスカートが、いかにも乙女チックな一着である。
加えて、白レースの日傘まで差し、格好だけは良家のお嬢様スタイルを決め込んだ。
そうやって、せっせとカロリーを消費し、お腹のお肉を退治しているのである。
「うわっ!なにあれ!」
海風荘裏の小高い丘を登り切った時に、それは目に飛び込んできた。
目が覚めるような緋色をまとった木が、丘の上に立ち尽くしていた。
一瞬、木が燃えているのかとも思った。
それほどに鮮やかな緋色の花々が、一本の大木の梢に、たわわに咲き誇っていたのだ。
「あぁ、もしかしたら、この木が鳳凰木かな?
よしオバアが言ってた思い出の木ってヤツ」
怒濤の茶飲み話を思い出して、ほろ苦く笑った。
委細は恥ずかしがって教えてくれなかったが、この鳳凰木には、よしオバアと亡くなった旦那さんとの恋の逸話があるそうだ。
「鳳凰木はよ、オバアの思い出の木さぁ。
あのさ、うちのオジーが言うにはよ。
あの木はよ、夏の始めに、まず真っ赤な花が咲いて、ぼうぼうと梢を燃やすんだと。
それでよ、花の炎に耐えかねて、梢が花を落とす。
燃え落ちた花は、色褪せることもなく、大地を覆って焼き尽くす。
そうやって、夏の灼熱を連れてくる。
オバアはオジーにそう教えてもらったやさ。
一面に咲いた鳳凰木の花を見上げながらよ。
それからのことよ。
オバアは、鳳凰木がでーじ(とても)大好きになった。
ひゃーっ!
この年になっても、恋バナは照れるやっさ!」
丸太ん棒みたいな腕を戦慄かせて、身をよじるよしオバアは、とても可愛らしかった。
「恋・・ねぇ。
まあ、くったくたに疲れてきたところだし、御利益あるかも知れないし。
休憩ついでに一応拝んでおきますか」
彼氏いない歴イコール年齢の私は、歩き疲れた足をよろよろと引きずって、丘に立つ鳳凰木に歩み寄った。
