4【デート改善案可決】
「ねえ、雪人。ちょっと問題提起してもいい?
現在、私達が実行しているデートについて」
私は内心で腕まくりして、雪人に向き直った。
「あん?なんだよ、藪から棒に」
いきなりの話題転換に、雪人は不審顔だ。
「良いから聞きたまえよ、雪人クン。
私達のやってるデートって、本当にデートなの?
山菜取りに畑仕事、とどめに釣りってさ。
ほぼ食料採取だよ。
なんか、無人島を開拓するアイドルみたいじゃない?
このまま行ったら、そのうち、反射炉作ったり、珍しい深海魚を発見したりしちゃいそうよ。
もしくは、夏休みの小学生だね。
ここんとこ着てるものも、毎日、半袖・短パン・麦わら帽子の三点セットだもん。
いや、楽しいんだよ?
楽しいんだけどさ。
うら若き乙女と青年の過ごし方としては、どうかと思うのよね」
この際とばかりに、一気呵成にわだかまりを吐き出した。
「・・確かに」
雪人も、思い当たる節があるのだろう。
渋柿を噛んだみたいな顔になったが、すぐに肯定した。
「楽しいんだけどねぇ」
「あぁ、仮にも恋人を名乗る大学生の男女が、毎日やることじゃねぇな」
日に焼けて一皮むけたお互いの鼻を見つめて、反省しあった。
「それらしいデート法を一緒に考えようよ」
「だな」
(二人しかいないけど)全会一致で、デート改善案が可決された。
「じゃあ、連絡先交換しよ。
相談事するなら、断然便利だよ」
最近、無用の長物と化したスマホを、鼻先に突きつけた。
「そんなもん必要ない。
さっさとしまえよ」
案の定、雪人は不機嫌丸出しで、そっぽを向いた。
どうしてだか、雪人はスマホを嫌うのだ。
写真を撮ることすら、断固拒否を貫く。
写真をとられたら、魂を抜かれるとでも思っているのか。
まったくどんな旧人類だ。
「いいでしょ?
ラインくらいしようよ。
これからデート改善案、二人で考えるんでしょ。
家に帰ってから、良いアイデア時なんかに、すぐ相談できるじゃない。
・・それに、お休みとか、おはようとか、ちょっとしたやりとりも、簡単にできるんだよ」
言いながら、照れくさくなって舌がもつれそうになった。
ちょっとしたやりとりって・・。
言ってて恥ずかしくなってきたわ。
私は寂しがり屋の彼女か!
断じて違うがな!
「ちょっとしたやりとり、ね。
なるほど。
じゃあ、そういうのがしたくなったら、俺は直接言いに行くわ。
だから、連絡先交換は無しな」
雪人は突きつられたスマホを、ぐいと押し返した。
あくまでも連絡先交換にも応じない気らしい。
「なんでそんなに嫌がるのよ?」
流石にむっとして、食ってかかった。
「連絡先交換したら、お前のスマホに俺の存在が残るだろうが」
雪人もつられて顔をしかめた。
「は?なにそれ」
訳が分からない。
追求する口調も、思わずきつくなった。
「だから、スマホで連絡なんか取り合ったら、美羽のスマホに通話記録やメッセージのやりとりが残るだろ?
恋人契約は、島に滞在している期間のみだ。
お前が島を出た後も、俺の痕跡がお前のところに残るなんてゴメンだね」
決まり悪そうにしながらも、雪人はなおも断り続ける。
なんて、へんてこな理由だろう。
私は怒るのを通り越して、あきれた。
痕跡を残したくないって、あんたはスパイか。
スパイ気取りか。
中二病か。
「大丈夫よ。
高速船に乗るやいなや、雪人との通信記録なんて、速攻で消すから」
わざと可愛くないことを言って、おもしろ半分に雪人を煽った。
実際は、雪人の連絡先を消すだなんて、私はこれっぽっちも考えてもいなかった。
この旅行が終わってからも、連絡を取り合うものだと、当たり前のように思っていた。
でも、雪人は違った。
「それでも、お前のことだから、消し忘れがあるかも知れないだろうが。
そんで、忘れた頃に、ふとしたはずみでお前に見つけられるのは嫌だ」
返ってきたのは、徹底的な拒否だった。
びっくりした。
そして、今度こそ、私は傷ついた。
強ばる私を見たくないとでも言うのか、長い睫毛が瞳を隠してしまうほど、目が逸らされた。
「それにさ、アナログなのも良くないか?
恋ってのは、不確定要素があったほうが、より一層燃え上がるもんだし」
目を伏せたまんまで、雪人の薄い唇が忙しなく動いた。
とってつけたような甘ったるい発言だ。
青いビーチサンダルの踵が、意味もなくコンクリートをにじっている。
「ふぅ〜ん、雪人ってロマンチストなんだ。
明治の文豪みたいで、いいんじゃない?
でも、燃え上がると言われましてもねぇ。
私、雪人に対して、可燃性の感情は持ち合わせてないんですけど。
ええ、一切」
私は急いで自分を繕い、へっと鼻で笑ってやった。
傷ついている自分を晒したら、雪人も酷く傷つくような気がしたから。
だから、ロマンチックを装った誤魔化しに、気付かない振りをしたのだ。
「可愛くねぇな」
わざとらしいくらいに不機嫌な顔で、雪人は睨みつけてくる。
「可愛くなくて結構よ」
抜く手も見せず、頬をつねってやった。
「痛ってえ!
おい、美羽!
本気でつねるな!
ごら!爪食い込んでんぞ!」
「うっさい!天誅よ!」
「やめろ!
DVだそ、このメスゴリラが!」
「何ですって、残念なイケメンなくせに!」
「黙れ、嫁かず後家予備軍!」
「はんっ!
君はね、いちいち罵り言葉が古いのよ。
原始人か」
「馬鹿言うな!
俺は教養豊かなだけだ。
語彙力も胸も貧相なお前とは違うわ!」
「む・胸が貧相!?
ゆーきーと!
言ってはいけないことを言ったね!」
「事実だ、ぼけ!
真摯に受け入れろ!」
「うるさいわよ、似非ロマンチスト!」
実に実に、お恥ずかしい話だが、私達はやり合ううちに、だんだんむきになっていった。
結果、年甲斐もなく激しい口喧嘩に発展した。
しかも、互いにちょこっと涙ぐむくらい本気の。
全く持って、赤面の至りである。
ぎゃんぎゃん言い合ううちに、連絡先交換の話はうやむやになり、それっきり持ち出されることはなかった。
その日の釣果は言うまでもなくゼロで、よしオバアを大変がっかりさせた。
ごめんね、オバア。
全部全部、わからんちんの原始人、雪人のせいだからね。
ふんっ!
「ねえ、雪人。ちょっと問題提起してもいい?
現在、私達が実行しているデートについて」
私は内心で腕まくりして、雪人に向き直った。
「あん?なんだよ、藪から棒に」
いきなりの話題転換に、雪人は不審顔だ。
「良いから聞きたまえよ、雪人クン。
私達のやってるデートって、本当にデートなの?
山菜取りに畑仕事、とどめに釣りってさ。
ほぼ食料採取だよ。
なんか、無人島を開拓するアイドルみたいじゃない?
このまま行ったら、そのうち、反射炉作ったり、珍しい深海魚を発見したりしちゃいそうよ。
もしくは、夏休みの小学生だね。
ここんとこ着てるものも、毎日、半袖・短パン・麦わら帽子の三点セットだもん。
いや、楽しいんだよ?
楽しいんだけどさ。
うら若き乙女と青年の過ごし方としては、どうかと思うのよね」
この際とばかりに、一気呵成にわだかまりを吐き出した。
「・・確かに」
雪人も、思い当たる節があるのだろう。
渋柿を噛んだみたいな顔になったが、すぐに肯定した。
「楽しいんだけどねぇ」
「あぁ、仮にも恋人を名乗る大学生の男女が、毎日やることじゃねぇな」
日に焼けて一皮むけたお互いの鼻を見つめて、反省しあった。
「それらしいデート法を一緒に考えようよ」
「だな」
(二人しかいないけど)全会一致で、デート改善案が可決された。
「じゃあ、連絡先交換しよ。
相談事するなら、断然便利だよ」
最近、無用の長物と化したスマホを、鼻先に突きつけた。
「そんなもん必要ない。
さっさとしまえよ」
案の定、雪人は不機嫌丸出しで、そっぽを向いた。
どうしてだか、雪人はスマホを嫌うのだ。
写真を撮ることすら、断固拒否を貫く。
写真をとられたら、魂を抜かれるとでも思っているのか。
まったくどんな旧人類だ。
「いいでしょ?
ラインくらいしようよ。
これからデート改善案、二人で考えるんでしょ。
家に帰ってから、良いアイデア時なんかに、すぐ相談できるじゃない。
・・それに、お休みとか、おはようとか、ちょっとしたやりとりも、簡単にできるんだよ」
言いながら、照れくさくなって舌がもつれそうになった。
ちょっとしたやりとりって・・。
言ってて恥ずかしくなってきたわ。
私は寂しがり屋の彼女か!
断じて違うがな!
「ちょっとしたやりとり、ね。
なるほど。
じゃあ、そういうのがしたくなったら、俺は直接言いに行くわ。
だから、連絡先交換は無しな」
雪人は突きつられたスマホを、ぐいと押し返した。
あくまでも連絡先交換にも応じない気らしい。
「なんでそんなに嫌がるのよ?」
流石にむっとして、食ってかかった。
「連絡先交換したら、お前のスマホに俺の存在が残るだろうが」
雪人もつられて顔をしかめた。
「は?なにそれ」
訳が分からない。
追求する口調も、思わずきつくなった。
「だから、スマホで連絡なんか取り合ったら、美羽のスマホに通話記録やメッセージのやりとりが残るだろ?
恋人契約は、島に滞在している期間のみだ。
お前が島を出た後も、俺の痕跡がお前のところに残るなんてゴメンだね」
決まり悪そうにしながらも、雪人はなおも断り続ける。
なんて、へんてこな理由だろう。
私は怒るのを通り越して、あきれた。
痕跡を残したくないって、あんたはスパイか。
スパイ気取りか。
中二病か。
「大丈夫よ。
高速船に乗るやいなや、雪人との通信記録なんて、速攻で消すから」
わざと可愛くないことを言って、おもしろ半分に雪人を煽った。
実際は、雪人の連絡先を消すだなんて、私はこれっぽっちも考えてもいなかった。
この旅行が終わってからも、連絡を取り合うものだと、当たり前のように思っていた。
でも、雪人は違った。
「それでも、お前のことだから、消し忘れがあるかも知れないだろうが。
そんで、忘れた頃に、ふとしたはずみでお前に見つけられるのは嫌だ」
返ってきたのは、徹底的な拒否だった。
びっくりした。
そして、今度こそ、私は傷ついた。
強ばる私を見たくないとでも言うのか、長い睫毛が瞳を隠してしまうほど、目が逸らされた。
「それにさ、アナログなのも良くないか?
恋ってのは、不確定要素があったほうが、より一層燃え上がるもんだし」
目を伏せたまんまで、雪人の薄い唇が忙しなく動いた。
とってつけたような甘ったるい発言だ。
青いビーチサンダルの踵が、意味もなくコンクリートをにじっている。
「ふぅ〜ん、雪人ってロマンチストなんだ。
明治の文豪みたいで、いいんじゃない?
でも、燃え上がると言われましてもねぇ。
私、雪人に対して、可燃性の感情は持ち合わせてないんですけど。
ええ、一切」
私は急いで自分を繕い、へっと鼻で笑ってやった。
傷ついている自分を晒したら、雪人も酷く傷つくような気がしたから。
だから、ロマンチックを装った誤魔化しに、気付かない振りをしたのだ。
「可愛くねぇな」
わざとらしいくらいに不機嫌な顔で、雪人は睨みつけてくる。
「可愛くなくて結構よ」
抜く手も見せず、頬をつねってやった。
「痛ってえ!
おい、美羽!
本気でつねるな!
ごら!爪食い込んでんぞ!」
「うっさい!天誅よ!」
「やめろ!
DVだそ、このメスゴリラが!」
「何ですって、残念なイケメンなくせに!」
「黙れ、嫁かず後家予備軍!」
「はんっ!
君はね、いちいち罵り言葉が古いのよ。
原始人か」
「馬鹿言うな!
俺は教養豊かなだけだ。
語彙力も胸も貧相なお前とは違うわ!」
「む・胸が貧相!?
ゆーきーと!
言ってはいけないことを言ったね!」
「事実だ、ぼけ!
真摯に受け入れろ!」
「うるさいわよ、似非ロマンチスト!」
実に実に、お恥ずかしい話だが、私達はやり合ううちに、だんだんむきになっていった。
結果、年甲斐もなく激しい口喧嘩に発展した。
しかも、互いにちょこっと涙ぐむくらい本気の。
全く持って、赤面の至りである。
ぎゃんぎゃん言い合ううちに、連絡先交換の話はうやむやになり、それっきり持ち出されることはなかった。
その日の釣果は言うまでもなくゼロで、よしオバアを大変がっかりさせた。
ごめんね、オバア。
全部全部、わからんちんの原始人、雪人のせいだからね。
ふんっ!
