奏が発するまえに、追いついてきた朝倉くんが先にげんなりした言葉で言う。
「弟を守ろうとするお姉さんとしては、健気だと思うけど。でも敦美先生は、先生として何も間違えたことは言ってない。言ってはいないよ」
厳しい口調でそう言われて、顔が熱くなる。
「……この前から、あんたも何? 関わってって頼んでないし」
反抗期みたいで格好悪い。近づいてくるもの全部に攻撃的で恥ずかしい。
けれど、そうしなきゃ自分を守れない。
「武田さん」
「……うっせ」
朝倉くんが何か言いかけたが、マスク越しに奏が小さく呟く。
「帰る」
短く、たった数文字の言葉だったけど、奏の声を聞けた。
敦美先生の言動に滅茶苦茶になっていた私は、その瞬間、言葉を失った。
再び奏に手を取られ、階段を下りて靴箱の場所まで歩きながら泣き出しそうだった。
奏は気付いていないだろうけど、数カ月ぶりに声を聞けたんだ。
一生、話してくれないんじゃないかって思ってたのに。
「全然、声、変じゃないじゃん」
「……」
「ねえ、もう一回話して」
シャツを引っ張って、揺さぶる。
すると、耳を赤くした奏がこっちを向いた。
「なんか話して?」



