先生は言いにくそうに、周りを気にしながら空から雨をぽつりと落すように言う。
「陸上競技場に行くのが、辛くて、怖いそうだ。行くと思いだしそうで、無理だと」
陸上競技場――。
そうか。うちの県ではあそこしかない。
高校の大会もあそこであるのか。
だったら確かに弟には無理だと思う。
私さえ無理だ。
「じゃあ弟を勧誘するのは止めてください。無神経です」
「武田……」
「暑苦しいんですけど」
私が吐いた言葉に、先生が目を見開く。
「他人の先生が、私たちを簡単に説得できるなんて、勘違いも甚だし――」
続けて言おうとした言葉は、塞がれて言えなかった。
「すいません、人手が足りないので借りて行きます」
頭を下げながらその声を発した人は、朝倉一で。
私の口を手で覆いながら引きずっているのは、奏だった。
「ちょ、ちょっと――」
見上げた奏はやはりマスクをしている。
廊下をズルズルと引きずられ、生徒会室前で手を離されると、見上げていた私を睨む。
「敦美先生は君の傷に触らないように、言葉を選んで、けれど他と区別することなく平等に接していたと思いますよ」



