私が悲しむよりも早く現実は押し寄せる。

バスに突っ込んで即死した軽自動車の運転手は、保険に加入していなかった。
うちはお父さんもお母さんも保険に入っていたけれど、人を殺しておいて無責任な人のせいで、本当に嫌な思いばかりした。
お母さんの足は、手術したものの完治することはない。

それに対する損害を請求したのに、一銭も貰えない。
ガードレール、バス、そして他の重傷者、けが人、死亡者。

何一つ、誰一人責任取らずに死にやがって。
そんな恨み事を吐いてしまいそうだ。

私はせめてそんな事のない様にお金を貯めようと思う。
母がまともに働けなくなった今、私が家族を支えようと思った。


なので、3歳から習っていたピアノは辞めた。
バイトも、学校側に事情を話して始めた。

吹奏楽部も辞めた代わりに数人で合唱部を発足した。

ただ、ボーっとする日が増えて、空を見上げるのを止めた。

父の死を嘆く暇も与えないほど、世界が変わっていくのは正直、腹が立った。

すっかりやさぐれて可愛く無くなった頃だ。

「俺に家庭教師して」