『個人だよ。長距離。ずっとトップだったのに最後の一週で抜かされてね』
電話の向こうのお父さんは穏やかな声だった。
「蒼人らしいね。あいつ、目立ちたいから最初は飛ばすのよ」
真由にも聞こえたのかクスクス笑われる。
『団体リレーは格好良かったぞ。一番走者で、圧倒的だった』
お父さんの嬉しそうな声。
キーボードをリズミカルに弾く音色みたいな、声。
「じゃあ表彰式は終わっちゃった?」
『ああ。今はバス待ちだ。16時頃って言ってたかな。お父さんたちは混む前にバスに乗って先に駅に行く。お祝いに何か食べて帰ろうか』
「やった。じゃあ、待ってる! 真由も居てもいい?」
『いいぞ。奏くんも応援に来ていたから、一緒に連れて行くな』
また奏か。まあ、弟の応援に奏が来ないわけないよね、と納得する。
携帯を耳にあてたまま、真由の方を見る。
「ねえ、真由、今から弟のお祝い会するんだけど」
「行く」



