折角結んだポニーテールを引っ張られ、真由が反射的に後ろに振り返ると暴言の主を蹴った。

「いった」

「……蒼人!」
 
太腿を押さえて眉を顰めてるのは、一年になったばかりの私の弟の蒼人だった。
 生意気にも、真由を見つけてはこんな風にからかうから始末が悪い。一応、真由は全国大会に出場するような、うちの高校のエースで、弟からしてみれば敬うはずの三年生なのに。

「姉ちゃん、このブスとよく一緒にって、――え?」

蒼はまだ何か言いたそうだったのに、後ろから首根っこを掴まれて、引きずられながら私と真由の横を通って坂道を上がって行く。

「おい、離せってば、奏!」

蒼人が何か言っても、奏は私の方を向こうともせず、ずんずんと坂道を上がってしまった。

「ごめんね。うちの弟が生意気で。帰ったら〆るから」
「いいよ。あれぐらいなら私が〆てあげる。それより、奏くん、どうしたのかな?」
「え?」

「マスク。先月ぐらいからずっとマスクしてるよね。どうしたのー?」

校門に吸い込まれていった二人を見上げて、私は首を振る。