私の挑発にようやくこっちへ顔を向ける。
「私は、喋らない奏の声が聞ける魔女になったの。何でもお見通しなんだから」
目の前にいる。なのに喋らない。
低い声だと知ってる。でもそれ以外は、今日初めて知った。
そんなに指が長かったっけ。
ボタンを二つも開けた制服から見える鎖骨、そんなに骨ばってったっけ。
全体的にごつごつして、スッとシャープになった輪郭。
可愛いと思ってた面影がどこにも見当たらない。
「ねえ、手出して。パーって出して」
うんざりしてそうだったけど、めげずに腕を掴んで手を広げさせた。
「あ、こら、抵抗しないで」
グーにした手を、ぐぐぐっと一本一本広げてパーにさせると素早く自分の手を重ねた。
「うわ、ショック。私の手より全然長いじゃん」
爪一個分ぐらい向こうから奏の指が見える。
「いいなあ。この指ならピアノ、絶対弾きやすいよ。私って小指が人よりちょっと短くてさ――」
唇を尖らせて睨んだら、奏の目がふっと濁ったような気がする。
その瞳を覗きこんで油断した私の、重ねていた手を奏の手が重なる。



