散々だ、と言おうとして、口が止まる。
消えていく。もう白い煙みたいに少ししか奏が見えない。
『ごめんね。僕のせいだ。ごめんね』
泣き出しそうな奏は、夜に溶けていく。
ある日、喋れなくなった奏が、かわりに寄こした本音の奏。
奏は、私の前に現れては、自分の気持ちだけ言って消えていく。
けれど、それは本音なのに隠し事もしているようで――。
「あっち。シャワー浴びてーっ」
ガシャンと自転車が止まる音がして窓から下を覗く。
すると自転車を止めた蒼人と奏が服を指で摘まんでぱたぱた仰ぎながら家に入ってくる。
しまった。私もシャワーを浴びたかったのだと急いで服を掴んで階段を下りる。
「私が先だからね」
ご飯の匂いがする。今日は、昨日のカレーの残りで焼きカレーだ。そう思ったら、ご飯を食べてからお風呂の方が髪に匂いが残らないのだと気付いて、風呂は弟に譲った。
「明日ねえ、リハビリで朝から病院なのよ。夜はお弁当買ってかえるね」



