「それは、結構ハードじゃない? それに勉強もあるでしょ。また私、教えよっか」
『あのね、実はね』
「何?」
『僕、そんなに頭悪くないんだよ』
カーテンの向こうにまた隠れ、おずおずと顔を出す。
私の様子をうかがっているのは分かるけど、それって。
「家庭教師してた時、馬鹿なフリしてたってこと?」
『いや、違うんだ。必死だった。なんか、こう、必死で先生を繋ぎとめたかった』
さっきまで頬を染めていた空は、ようやく真っ暗になった。
空が夜に染まれば、彼の消えそうな危うい存在が、ゆらゆらと視界の中で揺れているのが分かる。
『だって、先生、お父さん亡くなってから、すごい不安定で明日起きたら、居なくなってそうで怖かった』
「そりゃあ、親が亡くなって、次の日元気にご飯三杯食べれたらヒくでしょ。さすがに私もこの世を知ったわ」
『思い出さなくて良いよ。僕も、流石に蒼人の前では口にも出せない。忘れていい』
「忘れていいなんて簡単でいいよね。忘れるわけないじゃん。今の私は、あの事件のせいで――」



