先生、僕を誘拐してください。

と言いつつ、自分もあの人の見かけに騙されてるのに気づく。

私がストーカーだと騒いでも信じてもらえないのときっと一緒だ。

「まあ、……可愛い奏の言うことだから信じるよ。それ、いつ?」

椅子に座りなおして、肘を付きながら奏に聞く。
すると顔をくしゃくしゃにして泣きだしそうになりながら言った。

『塾に行こうとしたんだ……。中三の時だった。塾で女の先生に色々説明されてた時、朝倉一が入ってきて、僕を睨んだ』

「へえ、塾……」
『あの塾、朝倉一の家だって。で、僕……』

胸を押さえて、奏は苦しそうに私を見た。


『僕、先生に言えないことがあって』
「本音なのに?」

クスクス笑うが、奏は真珠みたいな大粒の涙を流す。

『本音だからこそ、言えない。僕は、朝倉一を監視する。だから生徒会に入るよ』

笑顔は消えた。涙も消えた。
まっすぐに私を見る、まだボーイソプラノの可愛い奏がそこに立っている。

『部活もやるよ。生徒会もする、で、恥ずかしくない決意と、カナリアの死んだ声で良かったら……歌う。先生が喜ぶならね』