先生、僕を誘拐してください。



最初から知らない男の子が、ぐんぐん私の前に現れるよりは、全然いい。
全然良いのだけど――なんだか朝倉一は嫌だと思ってしまった。
ファンにばれたら、消されてしまう。
絶対向こうの方が周りの信頼度が違う。
ストーカーされてると言っても信用してくれる人なんてきっといないレベル。

19:00
空はだんだんと暗くなるのが遅くて、バイトが終わって見上げた空はまだほんのり頬を染めている。
汗が張り付いたセーラー服は、自転車で漕がれて少し気持ちが良い。

帰って一番にシャワーを浴びたい。
そう思って家に着くと、二階のカーテンが揺れていた。



『歌いたくないわけじゃ、ないんだよ』

昨日、てっきり失望させて委縮させて消してしまったと思った、可愛い奏がカーテンの向こうでシルエット見せて弱々しく言ってくる。

「……着替えていい?」
『駄目だよ! 男の子の前でそんな警戒ないこと言わないでしょ!』

慌てた様子で奏がカーテンから顔を覗かせる。
ああ、こっちの男の子なら別に見られても平気だわ。
実際の奏なら、確かにちょっと嫌だけど。

「男の子、ねえ。なんで急にバスケなの? 歌いたくないなら合唱部もしなよ」