職員室で空いてる席に座っていた私に声をかけたのは、合唱部の新部長、新垣未来ちゃんだった。
真面目な彼女は、きっちり結んだみつあみを揺らしながら此方へ向かってくる。
「どうしたのー? 部活は?」
と言っても合唱部の子たちは、吹奏楽とほぼ兼用していて学際付近にならないと活動しない。私がバイトで吹奏楽に入るのを断念したので、その代わりの一時的な部活だから。
「そろそろ曲を決めようと思って集まる予定なんですけど、でも一年生の奏くん、バスケ部に入ったって言うから勧誘無理なのかなって」
「バスケ部!?」
初耳だった。昨日だってうちで散々遊んで夕食まで食べて帰って行ったのに、そんな話耳にもしなかったな。
「あれ、先輩、奏くんと幼馴染みだし仲良しなのに知らなかったんですか」
「知らないよ。なんか今……喉痛めてて会話もしてないし」
可愛いボーイソプラノだと自分で言っちゃうぐらい自信あった声が、今はどんな低いおっさん声になってるのか気にはなるけど。
「あー、そうなんですねえ。なんか、中学で同じ吹奏楽だった時は可愛い感じだったのに、今、すごく格好良くなってたから話しかけにくくて。勧誘しにくいなあって」
「えー? あれが格好良い!?」
驚いた私の頭を、丸めた教科書がポンっと弾いて良い音を立てた。