先生、僕を誘拐してください。



綺麗な薔薇の花の蔓に、急に棘が生えて歌声を傷つける。
その棘が柔らかくなれば、また前みたいに近づけるんだ。

「思春期の男の子って大変ねー」
冷蔵庫からお茶を取り出してラッパ飲みしていたら頭を叩かれる。

「蒼人はそんな繊細じゃなかったのに、やっぱり奏ちゃんは可愛いわね」

母が楽しそうに、自分の息子かのように奏の成長を暖かくみている。

けれど私が見ているのは、母の脹脛から太腿まで伸びている傷跡。

それでも母だけでも命があっただけ良かった。

「私、バイト先でご飯食べて来たから、いらない」

「美空?」

ゲーム機が散乱したリビングでカレーを食べる気がしなくて、ジュースだけ持って二階の自分の部屋に上がる。
蒼人と奏は、ゲーム対戦を始めたらしく私の言動に気をかける様子もなかったので、母の制止を振り切れた。