先生、僕を誘拐してください。


「……うん。ありがとう」

何だろう。生徒会長をするぐらいだから、善良な人で人望があって、きっとただの親切なのだと思う。

けれど、違和感が拭えない。
何でだろう。
何か、笑顔が渇いて嘘くさい。

「途中まで一緒に帰ろうよ」
「え、朝倉くんももう帰っちゃうの?」

絶対教室に戻れば、誰かしらに話しかけられて、図書室で勉強とかしちゃって、満喫してから帰りそうなのに。

「ん。武田さんと一緒に帰りたいから」

勘違いしてしまいそうな言葉を、こうも爽やかに言われたら期待してしまう方が馬鹿だと思う。
それぐらい下ごころの無さそうな言葉だった。

「うーん。変な噂になったら、受験生たちに僻まれるから遠慮しとくわ」
「そんなの気にするの? 誰も見てないよ」

「ごめん。遠慮させて」

やんわりと断ったら、朝倉君は眼鏡をとって胸ポケットに入れた。

「じゃあ、坂の下で待ってるよ」

「え、ちょ」

そのまま前生徒会長が、廊下を猛ダッシュで走って行く。
きっと本当に、坂の下で待ってる。
その熱意は、敦美先生に筆頭すると思う。

そう思ったらなんだか負けてしまって、私も坂を駆け下りて朝倉くんの背中を追ったのだった。