アタシは対人恐怖症なのだ。


だから、朋子も心配しているに違いない。


女性がパソコンにむかっている間、精神安定剤を飲み深呼吸をした。



「ちょうど、1週間後のご出発が1席空いてますがどうしますか?

そのあとになっちゃうと1ヶ月後ぐらいになってしまいますね。」


アタシはオロオロした。


半ば強引に決めたこの一人旅だが正直不安もあった。

国内旅行でもよかったのではないか…


が、しかし、思い返せば社会人になってから、人の思い通りになっている自分しかいなかった。


アタシの意志で決断したことなんて、


何一つなかったのだ。



女性はアタシを不思議そうに見ていた。


この決断するまでの沈黙。

冷や汗ダラダラで顔も熱くなっている。
暖房の風は更にアタシの身体を熱くさせていた。




1週間なんて直ぐだ。このまま本当に決めてしまっていいものなのだろうか…



「失礼ですが、お客様パスポートはお持ちでしょうか?」


「あ、はい。」




海外旅行には行ったことはないが、以前、会社の社員旅行のために、

パスポートを発行していたのだ。



それも、前に付き合っていた彼氏にもっと稼げといわれて、

転職したアタシは社員旅行に行けず終いで


パスポートはまだ未使用だ。


急にあたしの中に怒りが込み上げてきた。

あのクソ男!



「あの…すいません、お客様…」


女性は苦笑いをうかべている。



「もしよろしければ、飛行機のほうおとりいたしますが」



「じゃぁ、それでお願いします。」


女性はまたパソコンに向かった。



アタシはなんで今更あの最低な男を思い出さなくちゃいけないんだ…
と、まだ怒りがおさまらなかった。



でもアタシはやっと自分の意志で物事を決断したのだ。

そんな自分が少し誇らしかった。